発酵食品図鑑
味噌(味噌・醤油)
仕込んで、あとは待つだけ。麹菌が大豆のたんぱく質とでんぷんを分解し、そのあと酵母と乳酸菌が風味を作るという二段構えの発酵です。家庭で仕込める発酵食品の中では、失敗しにくく待ち時間が長いタイプです。
白味噌(味噌・醤油)
短く、甘く、色を付けない。京都の雑煮や西京焼きに使う、麹の割合が高くて塩分が低く、熟成期間が短い味噌です。甘いのは、麹が多いぶん糖が多く残るから。色が白いのは、熟成が短く温度も低いので褐変が進まないためです。
豆味噌(八丁味噌など)(味噌・醤油)
米も麦も使わない、大豆だけ。米麹や麦麹を使わず、大豆そのものに麹菌を付けた「豆麹」だけで仕込む味噌です。東海地方の味噌で、色が濃く、渋みと濃いうま味があります。糖の元になるでんぷんが少ないので甘くならず、そのぶん熟成が長い。
麦味噌(味噌・醤油)
香りが立って、熟成が早い。米麹の代わりに大麦や裸麦で作った麦麹を使う味噌です。九州・四国・中国地方で多く作られます。麦の香ばしい香りが立ち、米味噌より甘口で熟成が早いのが特徴。
醤油(味噌・醤油)
麹と、塩水と、時間。大豆と小麦から作った「醤油麹」を塩水に仕込み、もろみとして熟成させて搾った液体です。味噌が固形のまま食べるのに対し、醤油は搾るのが決定的な違い。麹菌の酵素で分解が進んだあと、耐塩性の乳酸菌と酵母が香りを作ります。
魚醤(しょっつる・いしる・ナンプラー)(味噌・醤油)
魚が、自分の酵素で溶ける。魚に大量の塩をして、魚自身の酵素と細菌でたんぱく質をアミノ酸まで分解させた調味料です。秋田のしょっつる(ハタハタ)、能登のいしる(イカ・イワシ)、タイのナンプラー。麹を使わないのが味噌・醤油との違いです。
もろみ(醤油の実)(味噌・醤油)
搾らずに、そのまま食べる。醤油を搾る前の、麹と塩水が混ざった状態そのものを、搾らずに食べる調味料です。大豆と麦の粒が残っていて、きゅうりに付けたり、ご飯に乗せたりします。醤油より甘みと粒感があり、香りが強い。
糠床(漬物・糠床)
毎日かき混ぜる理由が、ちゃんとある。米糠に塩と水を加え、乳酸菌と酵母を育てた発酵床です。野菜を漬けると、乳酸菌が作る酸と、酵母が作る香りが移ります。野菜から出た栄養で菌が育つので、使うほど床が成熟します。
キムチ(漬物・糠床)
唐辛子より、乳酸発酵が主役。塩漬けにした白菜に薬味を合わせ、乳酸発酵させたものです。市販品には「発酵させた本物」と「調味液で味を付けただけ」の両方があります。表示に「乳酸菌」や「発酵」とあるか、酸味があるかで見分けられます。
ザワークラウト(乳酸キャベツ)(漬物・糠床)
材料は、キャベツと塩だけ。キャベツに塩をして、キャベツ自身に付いている乳酸菌に発酵させたものです。酢は使いません。発酵が進むにつれて酸味が出て、色が透き通っていきます。ヨーロッパの保存食で、発酵の入門としていちばん失敗が少ない部類です。
たくあん(漬物・糠床)
干してから、糠に埋める。大根を天日で干して水分を抜いてから、米糠と塩で漬けたものです。干すことで水分活性が下がり、甘みが凝縮し、独特の歯ごたえが生まれます。糠床に漬けるぬか漬けとは違い、専用に仕込んで数ヶ月置きます。
浅漬け(漬物・糠床)
発酵させない漬物。実は、ほとんど発酵していない漬物です。塩の浸透圧で水を抜き、味を入れているだけで、乳酸発酵が進む前に食べます。だから酸味がなく、野菜の風味がそのまま残る。発酵食品と漬物が同じではないことが、いちばん分かりやすい例です。
梅干し(漬物・糠床)
塩分を下げると、途端に難しくなる。完熟梅に塩をして梅酢を上げ、土用のころに天日で干したものです。乳酸発酵が主役ではなく、塩とクエン酸と乾燥で保存する食品。だから塩分濃度が保存性を直接決めます。
らっきょう漬け(漬物・糠床)
塩漬けしてから、甘酢へ。らっきょうを塩で下漬けして乳酸発酵させ、そのあと塩を抜いて甘酢に漬け替えるのが伝統的な作り方です。下漬けの発酵が、あの独特の風味と歯ごたえを作ります。塩漬けを省いて甘酢に直接漬ける方法もあり、こちらは発酵しません。
水キムチ(漬物・糠床)
汁まで飲む、辛くないキムチ。唐辛子とアミの塩辛を使わず、塩水に野菜と米のとぎ汁を入れて乳酸発酵させたものです。できあがった汁が酸味と甘みを持つ飲みものになるのが特徴で、冷麺のスープにも使われます。辛くないので、キムチが苦手でも入りやすい。
ヨーグルト(乳製品)
温度さえ守れば、失敗しない。牛乳の乳糖を乳酸菌が分解して乳酸を作り、その酸で乳たんぱく(カゼイン)が固まったものです。固まる仕組みは、レモン汁で牛乳が分離するのと同じ原理です。
ケフィア(乳製品)
乳酸菌と酵母が、一緒に働く。乳酸菌だけでなく酵母も一緒に入った種で発酵させる乳製品です。ヨーグルトより酸味がやわらかく、わずかに発泡し、独特の香りがあります。コーカサス地方が起源で、ケフィアグレイン(粒状の種)を使う作り方と、粉末種菌を使う作り方があります。
フレッシュチーズ(カッテージ・リコッタ)(乳製品)
熟成させない、その日のチーズ。牛乳を酸か酵素で固めて、水分を切っただけのチーズです。熟成させないので、カビも独特の香りもありません。厳密には発酵をほとんど伴わないものもあり、レモン汁や酢で固める作り方は化学的な凝固だけです。
白カビチーズ(カマンベール型)(乳製品)
外から内へ、熟成が進む。表面に白カビ(Penicillium camemberti)を生やして、外側から内側へ熟成させるチーズです。あの白い皮そのものが菌の集まり。熟成が進むほど中心がとろけ、香りが強くなります。
青カビチーズ(乳製品)
穴を空けて、内側から熟成させる。Penicillium roqueforti を内部で育てるチーズです。白カビが表面から進むのに対し、青カビは酸素が要るので、チーズに針で穴を空けて空気を通し、その道筋に沿って青い筋ができます。塩分が高く、刺激的な風味になります。
発酵バター・サワークリーム(乳製品)
クリームを、先に酸っぱくする。生クリームを乳酸菌で発酵させてから使うものです。サワークリームはそのまま、発酵バターはさらに撹拌して脂肪を固めます。普通のバターとの違いは、乳酸菌が作った香り成分(ジアセチルなど)で、コクと酸味が加わります。
納豆(納豆・大豆)
強い菌だから、家でも作りやすい。蒸した大豆に納豆菌を付けて発酵させたものです。納豆菌は他の菌より圧倒的に強いので、多少雑な環境でも納豆菌が勝ちます—— 家庭で作りやすい理由がこれです。
テンペ(納豆・大豆)
納豆と違って、糸を引かない。インドネシアの大豆発酵食品で、クモノスカビ(Rhizopus)で発酵させたものです。白い菌糸が大豆を板状に固め、納豆のような粘りと匂いは出ません。切って焼く、揚げる、といった調理ができるのが納豆との大きな違いです。
豆腐よう(納豆・大豆)
沖縄の、チーズのような豆腐。島豆腐を紅麹と泡盛に漬け込んで、数ヶ月かけて発酵・熟成させた沖縄の珍味です。麹の酵素で豆腐のたんぱく質が分解され、うま味の濃いクリーム状になります。少量をつまようじで削って食べます。
浜納豆・寺納豆(納豆・大豆)
納豆菌ではなく、麹菌で作る納豆。名前は納豆ですが、納豆菌は使いません。蒸した大豆に麹菌を付けて豆麹にし、塩水に漬けて熟成させ、干したものです。糸を引かず、黒くて塩辛く、味噌や醤油に近い味。京都の大徳寺納豆、浜松の浜納豆が知られます。
塩麹(麹の調味料)
いちばん簡単な、麹の入口。米麹・塩・水を混ぜて常温に置くだけで作れる調味料です。麹の酵素がでんぷんを糖に、たんぱく質をアミノ酸に変えるので、甘みとうま味が同時に生まれます。
甘酒(麹甘酒)(麹の調味料)
砂糖を使わずに、甘くなる。米のでんぷんを麹菌の酵素がブドウ糖に分解したものです。砂糖を一切加えていないのに甘くなります。酒粕から作る甘酒とは別物で、こちらはアルコールを含みません。
醤油麹(麹の調味料)
塩麹の、醤油版。米麹を塩水ではなく醤油に漬けて作る調味料です。塩麹が塩味とうま味なのに対し、醤油麹は醤油の香りとうま味が乗ります。作り方は塩麹より簡単で、塩分の計算も要りません(醤油の塩分がそのまま効きます)。
玉ねぎ麹(麹の調味料)
洋風の出汁になる、麹の調味料。すりおろした玉ねぎと米麹と塩を合わせて発酵させた調味料です。玉ねぎの糖とうま味に、麹のアミノ酸が重なって、コンソメのような風味になります。スープや炒め物に使うと、市販の顆粒だしを置き換えられます。
三五八漬けの床(麹の調味料)
塩3・麹5・米8の、覚えやすい床。塩3・米麹5・蒸した米8の割合で作る、東北の漬け床です。名前がそのまま配合になっています。糠床のように毎日混ぜる必要がなく、麹の甘みで漬かるので、糠漬けより手がかかりません。
発酵あんこ(麹の調味料)
砂糖を使わずに、甘くなる。茹でた小豆に米麹を混ぜて保温し、麹の酵素ででんぷんを糖に変えたあんこです。砂糖を一切入れずに甘くなるのが特徴で、甘酒と同じ原理。「砂糖不使用」ではありますが、糖が無いという意味ではありません—— でんぷんが糖に変わっているだけです。
サワードウ(自家製パン種)(パン・生地)
粉と水だけで、菌が集まってくる。小麦粉やライ麦粉と水を混ぜて置くだけで、粉と空気中の野生酵母と乳酸菌が増えて発酵種になります。市販のイーストより発酵が遅いぶん、酸味と複雑な風味が出て、日持ちも良くなります。
レーズン酵母(果実の酵母おこし)(パン・生地)
パンのための種で、飲みものではない。レーズンやりんごの皮に付いている野生の酵母を、糖水の中で増やして、パン種の元にするものです。小さな泡が立ち、甘い発酵の香りがしてきたら酵母が働いている合図。ここに粉を足して、パン種(元種)に育てます。
ライ麦の種おこし(パン・生地)
いちばん立ち上がりやすい粉。ライ麦の全粒粉と水だけで、粉に付いている乳酸菌と酵母を育てて種を作る方法です。小麦粉より栄養と菌が多いので、立ち上がりが早く失敗しにくい—— サワードウを始めるなら、ここからが最短です。
サワードウブレッド(パン・生地)
イーストを使わずに、種で焼く。自家製のパン種だけでふくらませるパンです。イーストのパンより発酵に時間がかかり、乳酸菌が作る酸味と、複雑な香りが出ます。生地が酸性になるぶん、日持ちもよくなります。
イドゥリ・ドーサの生地(パン・生地)
米と豆を、そのまま発酵させる。南インドの、米とウラド豆をひいて発酵させた生地です。蒸せばイドゥリ(ふわふわの蒸しパン)、薄く焼けばドーサ(クレープ状)。イーストも麹も加えず、豆と米に付いている菌だけで自然に発酵します。
酢(酢)
酒がなければ、酢はできない。酢酸菌がアルコールを酸化して酢酸に変えたものです。米→日本酒→米酢、りんご→シードル→りんご酢という二段階を経ます。つまり酢造りは、必ず酒造りの後ろに来ます。
りんご酢(酢)
酒からしか、酢はできない。りんごの果汁をアルコール発酵させ、そのアルコールを酢酸菌が酢に変えたものです。つまり途中に必ず「酒」の段階があります。ここが家庭での再現に法律上の線が引かれる理由です。
コンブチャ(紅茶キノコ)(酢)
昆布茶ではなく、紅茶の発酵飲料。日本語の「昆布茶」とは無関係です。砂糖を入れた紅茶に、酵母と酢酸菌の共生体(SCOBY)を入れて発酵させた飲みもので、日本では1970年代に「紅茶キノコ」として流行しました。酵母が糖をアルコールに変え、酢酸菌がそれを酸に変えます。
ビネガーマザー(酢酸菌の膜)(酢)
捨てるべきものではない。酢の表面や瓶の底にできる、半透明でぷるぷるした膜や塊です。酢酸菌が作ったセルロースの膜で、ナタデココと同じ仕組みのもの。カビや異物ではありません—— 未濾過の酢では自然にできます。