魚醤(しょっつる・いしる・ナンプラー)
味噌・醤油
魚醤(しょっつる・いしる・ナンプラー)は、魚に大量の塩をして自身の酵素と細菌でアミノ酸まで分解させた調味料です。
どんな発酵?
魚に大量の塩をして、魚自身の酵素と細菌でたんぱく質をアミノ酸まで分解させた調味料です。秋田のしょっつる(ハタハタ)、能登のいしる(イカ・イワシ)、タイのナンプラー。麹を使わないのが味噌・醤油との違いです。化学と生物(2022)の解説記事(野間)は、種菌で発酵させる食品と違い、食塩20%超の塩だけで微生物を抑えているのが魚醤だと書いています。
材料
魚(内臓ごと)と塩だけ。塩分は魚の重量に対して20〜30%と非常に高い—— これが腐敗を止める唯一の仕掛けなので、減らせません。英語の工場紹介(MANURAFT)は、脂とたんぱく質と酵素が多いアンチョビを選ぶ理由を説明しています。研究の仕込みでも、アンチョビに25%の塩を混ぜたもの(Udomsil ら 2022)や、30%の食塩水で6か月仕込んだもの(Do Quynh Nguyen ら 2021)があります。
仕込み方
魚と塩を層に重ねて容器に詰め、重みをかけて置きます。英語の工場紹介(MANURAFT)は、積んだ魚の重みで液が下がり、板や石で圧をかける工場もあると説明しています。ベトナムの工場を紹介する動画(Chad Kubanoff)では、樽で9〜12か月置き、1か月から12か月まで段階ごとに試食していました。色は時間とともに濃くなり、12か月で塩気が強まる。まず市販品で色と香りを確かめてください。
見極めと失敗
魚を扱うのでヒスタミンのリスクがあります(→ヒスタミン(加熱しても消えない))。12か月仕込んだ魚醤でヒスタミン55.59mg/kgと、FDAが示す中毒量を超えた例があります(Ma ら 2021)。仕込む魚は必ず新鮮なものを、常温に置かずに。塩を減らす・途中で水を足す変更は絶対にしないでください。MANURAFT は、濁らず琥珀色から赤褐色のものを良いとし、鋭く酸っぱい匂いは品質が低いか急いで作られた印だと言います。
出典
- 論文・英語 Ma X ら(Foods)(2021) Contribution of Microorganisms to Biogenic Amine Accumulation during Fish Sauce Fermentation and Screening of Novel Starters
- 論文・英語 Udomsil N ら(Journal of Food Science)(2022) Extremely halophilic strains of Halobacterium salinarum as a potential starter culture for fish sauce fermentation
- 論文・英語 Do Quynh Nguyen A ら(Food Science & Nutrition)(2021) Fish sauce fermentation using Marinococcus halotolerans SPQ isolate as a starter culture
- 論文 野間 誠司(化学と生物)(2022) 魚醤の製造プロセス検討と細菌叢解析
- 動画・英語 MANURAFT Inside Fish Sauce Factories — How MILLIONS of Bottles of Liquid Gold Are Brewed the Ancient Way
- 動画・英語 Chad Kubanoff Vlog This Is How Fish Sauce Is Made
解説動画: 魚醤をお家で簡単に手作りする方法 魚醤料理も紹介!/オトコ中村
魚と塩だけで作る: 動画は魚醤を魚から作った醤(ひしお)だと説明し、魚を塩漬けにして置いておくだけだと言います。醤油なら大豆を水に浸けて蒸し、麹菌を生やして温度を見張る手間がかかるのに対し、こちらは工程がずっと少ない。割合は魚と塩が4対1で、魚が400gなら塩は100g。買ってきた魚の量に合わせて塩を決めます。
丸ごと1匹を使う: 魚は切り身でも腸を抜いたものでもなく、丸ごと1匹を買うようにと言います。理由は内臓の酵素がたんぱく質を分解していくからで、酵素は筋肉にもあるけれどそれだけでは足りない。逆に内臓ばかり集めると味が緩くなるそうです。京都では安いいわしをいつも使うとのこと。大きすぎる魚は向かず、完全に腐った魚は使わない、なるべく新鮮なものを、とも述べています。
1年以上、置いておく: 瓶に魚と塩を詰めたら蓋をして、1年以上そのまま放置するだけ。置き場所の温度は常温でよく、冷蔵庫には入れない、直射日光は避ける。夏は家のいちばん暑いところで構わないとまで言います。仕込んだ日付と分量はメモに残す——1年も経つと忘れてしまうからです。実際に手を動かすのは全部で30分ほど。
3年ものを開ける: 3年置いた瓶を開けるところが出てきます。魚は完全に溶けて原型を留めず、表面には膜が張り、突くと中から水分が出てきました。においは腐敗のにおい(酸味との違い)ではなく、いわしが熟成したにおいだと言います。ドロドロになった中身を鍋にあけ、水を足して火にかけると、骨以外はすっかり溶けてしまいます。
煮て、濾して仕上げる: 沸騰したら火を止め、ざるにキッチンペーパーを敷いて落ちなくなるまで濾します。下に茶色く澄んだ液体が溜まり、これが魚醤です。舐めてみると魚の臭みはまるでなく、旨味の濃い塩辛い汁。チャーハンは大さじ1で味付けが済み、豚肉と大根の煮物も出汁を取らずに決まる。1年以上かかるけれど簡単だ、と結びます。