現象図鑑
マグヌス効果(渦と後流)
回転する球が横へ曲がっていく理由。投げた球やボールが回転しながら進むと、まっすぐには飛ばずに横や下へそれていきます。回転の向きで曲がる向きが変わり、上から見て時計回りの球は進行方向の右へ寄ります。速さが同じなら回転が多いほど曲がりは大きく、野球の変化球では毎分2000〜3000回転ほどになります。
カルマン渦(渦と後流)
物の後ろで左右交互に並ぶ渦の列。棒や柱のような丸い物に流れが当たると、後ろに渦が左右交互に、規則正しく並んで流れていきます。乱れているのにはっきりした周期があり、速さが2倍になれば渦が離れる回数もおよそ2倍です。周期は物の太さと流れの速さでだいたい決まり、その関係はストローハル数という数で読みます。
後流(渦と後流)
物の後ろに残る、周りより遅い流れ。動く物の後ろには、周りより速度が落ちて乱れた帯が残ります。幅は物の大きさと形で決まり、角ばった車の後ろでは車体の高さほどの帯が数台分の長さまで伸びます。中は圧力がわずかに低く、細かい渦が混ざりながら少し遅れて周りの流れに溶けます。後ろが平らに切り落とされた形ほど、この帯は太くなります。
渦輪(渦と後流)
ドーナツ状に回りながら遠くまで進む渦。輪ゴムのような形をした渦が、断面でくるくる回りながらまっすぐ進みます。輪の内側は前へ、外側は後ろへ回っていて、輪全体が自分の作った流れに乗って動きます。周りとほとんど混ざらないまま数メートル先まで届き、輪の芯が細いほど速く進みます。煙や色水を使うと、その形がそのまま目に見えます。
翼端渦(渦と後流)
揚力を出す翼の先に必ずできる渦。揚力を出している翼の先端から、後方へ二本の渦が伸びます。旅客機なら太さは数メートル、長さは数キロに達し、数分間その場に残ってゆっくり沈みます。湿った日には中心の圧力が下がって水が細かい粒に変わり、翼の先から白い筋が引かれて見えます。乾いた日は、同じ渦があっても目に入りません。
剥離(渦と後流)
流れが物の表面から離れてしまうこと。面に沿って流れていた空気や水が途中で表面から浮き、その先に渦の混じった遅い場所を残します。離れる位置は物の形と流れの状態で変わり、丸い球なら真横の少し手前のことも、かなり後ろ寄りのこともあります。離れたとたんに後ろから押し返す力が足りなくなり、抵抗がはっきり増えます。
循環(渦と後流)
翼のまわりを回る流れの強さを表す量。閉じた線を一周しながら、流れがどれだけその向きに沿っていたかを足し合わせた量です。まっすぐな流れだけなら行きと帰りで打ち消してゼロですが、翼のまわりでは上面が速く下面が遅いので、一周ぶんに差が残ります。この残りが大きいほど、翼が受ける上向きの力も大きくなります。
排水口の渦(渦と後流)
栓を抜いた水が中心で細く回りだす渦。浴槽や洗面台の栓を抜くと、はじめは静かに落ちていた水がやがて中心で回りはじめ、細い渦になって空気の筋が下まで届きます。回り出すまでの時間は一定ではなく、最初から回っていることもあります。向きも日によって変わり、同じ流しでも入れ替わります。水が深いほど筋ははっきり立ちます。
ベルヌーイの効果(圧力と速さ)
速い場所ほど壁を押す力が弱まる関係。一本につながった流れをたどっていくと、細い区間ほど流れは速く、そこだけ壁を押す力が弱くなります。管の途中に細いガラス管を何本か立てて水位をくらべると、速い区間の水位だけが低い。速さと押す力がシーソーのように入れ替わる、その入れ替わりを見ているのがこの現象で…
ベンチュリ効果(圧力と速さ)
管を細くすると速くなり圧力が下がる。管の途中をなだらかに細くして、また広げた形のことです。いちばん細いのどと呼ばれる部分で流れが速くなり、壁を押す力はそこで最小になります。のどに小さな穴を開けておくと、外の空気や液体がひとりでに管の中へ入ってきて、流れに混ざったまま先へ運ばれていきます。
コアンダ効果(圧力と速さ)
噴き出した流れがそばの面に沿って曲がる。水道から細く落ちている水にスプーンの背をそっと近づけると、水がその丸みに貼りついたまま向きを変え、スプーンごと水の方へ引かれます。噴き出した流れがまっすぐ進まず、すぐ隣の面に沿って曲がる。空気でも同じことが起き、実用ではむしろそちらが主役です。
よどみ点(圧力と速さ)
流れが物にぶつかって止まる一点。向かってきた流れが物体の正面で行き場を失い、速さがゼロになる一点です。そこを境に、流れは上下左右へ分かれていきます。雨の日に車の正面へ水滴が集まってくる位置や、虫がぶつかって残る位置が、だいたいこの点のあたりだと思ってかまいませんが、目印があるわけではありません。
動圧と静圧(圧力と速さ)
流れの勢いと押す力を分けて数える。静圧は、流れの中にもともとある押す力で、流れと平行な横向きの穴で拾えます。動圧は勢いを圧力に直した量で、速さが二倍になれば四倍に増えます。この二つを足したものが全圧で、流れを正面で止めた場所に現れるのは静圧ではなく全圧のほうです。三つは別々のものなので、まず言葉を分けて覚えます。
地面効果(圧力と速さ)
地面が近いと浮きやすく抵抗も減る。着陸まぎわの飛行機が、滑走路の上でなかなか沈まずにふわりと滑るあれです。翼が地面に近づくほど同じ速さでも浮きやすくなり、進むのに要る力も減ります。効きはじめるのは、地面までの高さが翼の端から端までの長さと同じくらいになったあたりで、その半分を切ると急に強まります。着陸の最後の数秒に…
ピトー管の原理(圧力と速さ)
止めた圧力と横の圧力の差から速さを出す。先端に流れへ正面から向いた穴、側面に流れと平行な穴を持つ細い管です。正面では流れが止まって全圧が、側面では勢いの混ざらない静圧が拾われ、二つの差から速さを出します。旅客機の機首の下や風洞の壁から、細い棒のように突き出ているのがそれです。小さな穴が二種類あるだけの…
圧力抗力(圧力と速さ)
前と後ろの押す力の差で生まれる抵抗。物の前と後ろで押される力が釣り合わず、その差が後ろ向きの力として残る抵抗です。板を風に正面から立てると強く、同じ面積でも細長い形にすると小さくなります。身のまわりの物では受ける抵抗の大半がこちらで、表面のこすれによる分はごく一部にとどまります。
表面張力(界面と表面)
液体が表面の面積を減らそうとする性質。コップに水を静かに注ぐと、縁より少し上まで盛り上がってもこぼれません。小さな水滴は角ばらずに丸くなり、細い針や軽い虫が沈まずに水面へ乗ります。液体の表面が面積を小さくしたがるように振る舞い、その結果として表面が縮む向きの力が出ているように見える、というのがこの現象です。
毛細管現象(界面と表面)
細い隙間を液体が自分で登っていく現象。細いガラス管を水に立てると、誰も触っていないのに管の中だけ水が上がり、ある高さで止まります。管が細いほど高く上がり、太い管ではほとんど上がりません。紙タオルの端を水に浸すと数秒ほどで濡れが広がっていくのも同じで、土やスポンジ、布の中でも同じことが起きています。
ぬれと接触角(界面と表面)
液が広がるかはじくかを表す角度。同じ一滴でも、きれいなガラスの上ではぺたりと広がり、磨いた車の屋根では玉のまま転がります。液滴のふちで液面と固体の面がつくる角度を接触角と呼び、小さいほどよく広がり、大きいほど丸く残ります。ぬれるかはじくかは液だけの性質ではなく、液と固体の組み合わせで決まります。
マランゴニ効果(界面と表面)
表面張力の差が液を引っぱって起こす流れ。グラスの内側に残った薄い液が音もなく登り、粒になって垂れ落ちてくる、いわゆるワインの涙。石けん水の膜に色の筋が走るのも、椀の汁に模様が浮かぶのも同じ仲間です。かき混ぜていないのに液が自分で表面を滑って動き出すのが、この現象のいちばんの特徴になります。
コーヒーリング(界面と表面)
乾いた液滴がふちだけ濃く残る跡。こぼれたコーヒーの粒が乾くと、中は薄く、ふちだけが濃い輪になって残ります。泥水でも絵の具でも同じで、乾いた跡は円の縁に沿った線を描きます。中央にあったはずの粉が、乾いていく途中で外へ運ばれた結果です。輪の太さは一ミリ以下のことも珍しくありません。
液滴の分裂(界面と表面)
一本の流れが粒に切れていく過程。蛇口をごく細く開けると、水は途中まで糸のようにつながり、ある高さから急に粒へ切れます。霧吹きやシャワーでも、出口の少し先で分かれます。よく見ると糸のどこかが細くくびれ、そこがちぎれて丸い粒になり、あいだに小さな粒が取り残されることもあります。
シャボン膜(界面と表面)
二つの表面に挟まれた薄い液の膜。輪を石けん水にひたして引き上げると、向こう側が透けて見える膜が張ります。虹色の縞がゆっくり流れ、数十秒ほどで上のほうから色が抜け、やがて破れます。液が二枚の表面に挟まれた構造で、枠の形しだいで平らにも曲面にもなります。色が見えるころの厚みは、光の波長ほどしかありません。
界面活性剤のはたらき(界面と表面)
水と油の境目に並んで性質を変える物質。洗剤を一滴落とすと、水面に浮いていた粉がほんの一瞬で端へ逃げ、油の玉は細かく散ってにごります。同じ水なのに泡立つようになり、布や皿の隙間へしみ込みやすくなります。分子が水になじむ側と油になじむ側を一つずつ持っていることから起きる変化で…
ケルビン・ヘルムホルツ不安定(波と不安定)
速さの違う層が滑るところに並ぶ波。速さの違う二つの層が重なって滑るとき、境目に同じ間隔の波が並び、先端がそろって同じ向きに巻き込みます。空では雲が横一列のかぎ状になって数分から十数分で消え、水では風に押された表面が崩れる縁に現れます。並ぶ間隔は層の厚みと速度差でだいたい決まり、条件が続くうちは驚くほど整って見えます。
レイリー・テイラー不安定(波と不安定)
重い液が上にのった並びが崩れる動き。重い流体が軽い流体の上にのった並びが崩れ、重い側が指のように垂れ下がり、軽い側はきのこの形で持ち上がります。垂れは見ている間に伸びて、上下がすっかり入れ替わるまで進み、最後は境目がもやもやした混ざり合いに化けて、元の面がどこにあったのか分からなくなります。
水面の波(波と不安定)
形だけが進み、水はほとんど進まない動き。水面が上下すると、その形だけが横へ伝わっていきます。浮かべた木片は前へ進まず円を描いて戻るだけで、運ばれているのは水そのものではなく形と勢いです。指の幅ほどのさざ波は表面張力が、数十メートルのうねりは重さが、それぞれ水面を平らへ戻そうと働いています。
船の航跡(波と不安定)
船の後ろに広がるくさび形の波の帯。船の後ろに、決まった角度のくさび形の帯が伸びます。深い水では開き角が全体でおよそ39度に落ち着き、小舟でも大型船でもほぼ同じです。帯の中には、進む向きに直角な横波と斜めに並ぶ波が重なっていて、両方が交わるところにとがった山ができます。岸を強く洗うのは、たいていこの山です。
跳水(波と不安定)
浅く速い流れが急に厚くなる段差。台所の流しに水を落とすと、当たった点から薄くて速い円い膜が広がり、数センチのところで急に段差ができて、その外側は厚くゆっくりになります。内と外で深さが数倍違うので、指を置くと手ごたえの違いが分かります。川では堰の下に、幅いっぱいの白く泡立つ段差として現れます。
ソリトン(波と不安定)
形を保ったまま進む一つの盛り上がり。山が一つだけの盛り上がりが、形も高さも変えないまま長い距離を進みます。波の列ではなく単独で現れ、背の高いものほど速く、幅は狭くなります。二つが出会っても壊れず、互いを通り抜けて元の形に戻り、進み方のずれだけが残ります。ぶつかっても記憶を残さないのが特徴です。
スロッシング(波と不安定)
容器の中の液体が行き来する揺れ。持ち歩くコップの中身が、歩く歩調に合わせてだんだん大きく傾き、やがて縁を越えます。タンクの中では液面が斜めに行き来し、壁を叩く音と衝撃になります。容器を止めても中身はすぐには止まらず、しばらく行き来を続けます。半分ほど入った容器がいちばん派手に動きます。
粘性(粘りと抵抗)
隣り合う層がこすれ合う、流れの粘り。はちみつは糸を引いて落ち、水はすぐ切れて飛び散ります。同じ量を同じ高さから垂らしても、平らに広がるまでの時間は何十倍も違います。液体でも気体でも、隣り合う層がずれるときにこすれ合ってすべりにくい性質が粘性です。空気にも粘りはあり、こすれ合う強さで比べると水の数十分の一ほどです。
境界層(粘りと抵抗)
壁のすぐそばだけ流れが遅くなる薄い層。川底や翼の表面のすぐそばでは、流れが本流よりずっと遅くなっています。壁に接した部分は速さがゼロで、離れるにつれて本流の速さに追いつきます。追いつくまでの厚みが境界層で、身近な大きさの物なら数ミリから数センチしかありません。煙や染料を流すと、壁ぎわだけ遅れて動くのが見えます。
層流と乱流(粘りと抵抗)
整って進む流れと、混ざり合う流れ。線香の煙は最初まっすぐ上がり、ある高さで急にほどけて揺らぎます。前が層流、後ろが乱流です。蛇口を細く開けた水はガラス棒のように透き通り、大きく開けると白く濁って音も出ます。層流は隣の層と混ざらずに進み、乱流は大小の渦で絶えず混ざり合います。
抗力(粘りと抵抗)
流れの向きに物体を押していく力。流れの中の物が、流れと同じ向きへ押される力です。自転車で速さを倍にすると、向かい風の手ごたえはおよそ四倍になります。身の回りの速さでは速さの二乗におよそ比例して増えるからです。ごく小さな粒がゆっくり落ちる場面では、この増え方は当てはまりません。
揚力(粘りと抵抗)
流れを曲げた反作用で受ける横向きの力。流れの向きと直角にはたらく力で、翼、帆、回転する球に生まれます。翼の後ろでは空気がはっきり下へ吹き下ろされていて、低く通った機体の下で地上の草が乱れるのはそのためです。まっすぐ水平に飛んでいるあいだ、上向きの力は機体の重さとつり合う分だけ出ていて…
誘導抗力(粘りと抵抗)
揚力を作った代償として出る抵抗。揚力を生んだことの代償として現れる抵抗です。翼の端では下面の高い圧力が上面へ回り込み、渦になって後ろへ長く伸びます。重い機体の低速上昇でいちばん大きく、離陸直後の機体は一分から数分も渦を残すため、後続機は間隔をあけて離着陸します。速く巡航している間は目立ちませんが…
非ニュートン流体(粘りと抵抗)
力の加え方で硬さが変わる流れるもの。力の加え方しだいで硬さが変わる、流れるものたちです。水に片栗粉を一・五倍から二倍ほど入れて混ぜると、指をゆっくり入れれば沈むのに、叩くと固い床のようにはね返します。容器のケチャップが傾けても出ないのに揺すった瞬間に出すぎるのも同じ仲間で、生クリームや歯みがき粉、血液も入ります。
衝撃波(音と衝撃)
音より速く進むときにできる圧力の段差。空気の圧力と密度と温度が、ある面を境にほとんど一瞬で跳ね上がります。厚みは一ミリの一万分の一ほどしかなく、手前と奥では同じ空気とは思えないほど状態が違います。音のようになだらかにではなく段差のように変わるため、その面で光の進み方が折れ、特殊な撮影では細い白い線として写ります。…
ソニックブーム(音と衝撃)
超音速機が地上へ落としていく音の帯。超音速で飛ぶ機体の周りにできた圧力の面が地面に届くと、ドンドンと二回聞こえます。機首側と機尾側の二枚が続けて届くためで、間隔は十分の一秒ほど。花火の破裂音とは違って胸を押されるような低い響きになり、屋内にいても窓や戸がかたかたと揺れることがあります。…
キャビテーション(音と衝撃)
水の中で圧力が下がってできる蒸気の泡。水が速く流れて圧力の下がった場所に泡が急にわき、少し先で消える現象です。ポンプの羽根や船のスクリューの裏側に白いもやのように現れ、砂利が流れるような音と細かい振動を伴います。泡ひとつが生まれて潰れるまでは千分の一秒ほどで、目にはもやが居座っているようにしか見えません。
水撃(音と衝撃)
蛇口を急に閉めたときに管が鳴る現象。勢いよく流れていた水を急に止めると、管の中でドンという音と振動が起きます。洗濯機や食器洗い機のように一秒足らずで閉じる仕掛けで起きやすく、壁の中や床下でガタガタと続けて鳴ることもあります。繰り返すうちに継ぎ目がゆるみ、水漏れの原因にもなります。
風切り音(音と衝撃)
細い物のうしろで渦が並ぶときに出る音。電線やアンテナ、自転車のスポークのような細い物に風が当たると、ヒューという高い音が出ます。風が強いほど高く、物が太いほど低く鳴り、太さが半分になると音の高さはおよそ倍になります。音が作られるのは物の前ではなく物のうしろ側で、風向きと直角の方向へよく届きます。
ヘルムホルツ共鳴(音と衝撃)
瓶の口に息を当てると鳴る低い音。口の細い瓶の縁に斜めに息を当てると、ボーという低い音が出ます。瓶の大きさで高さが決まり、水を入れて中の空気を減らすと音は高くなります。同じ瓶なら強く吹いても高さはほとんど変わらず、大きさだけが変わります。残りの量を変えた瓶を並べれば簡単な音階も作れます。