剥離
渦と後流
流れが物の表面から離れてしまうこと
どんな現象?
面に沿って流れていた空気や水が途中で表面から浮き、その先に渦の混じった遅い場所を残します。離れる位置は物の形と流れの状態で変わり、丸い球なら真横の少し手前のことも、かなり後ろ寄りのこともあります。離れたとたんに後ろから押し返す力が足りなくなり、抵抗がはっきり増えます。
なぜ起きるか
物の前半では流れは加速しますが、いちばん太いところを過ぎると減速に転じ、前より後ろが高圧の坂を上ることになります。表面のすぐ近くは摩擦で勢いを失った層なので、この坂を上りきれずに止まり、押し戻されて逆流します。逆流が届いた地点で流れは面から浮き、そこから先は表面をなぞれません。だから物の後ろ半分では、流れはもう形をなぞらず、どこで離れたかで決まります。
どこで見られるか
翼が急に持ち上がらなくなる失速、車の後ろ、ゴルフボールのディンプルが効いている場面。走る車の後ろのガラスで雨粒が下から上へ登っていくことがありますが、あれは離れた流れが後ろで逆向きに回るからです。丸い柱の後ろで枯れ葉がくるくる残るのも同じで、風の強い日ほど見つけやすくなります。川に立てた杭のうしろにも、よく似た渦がたまっています。
勘違いしやすいところ
表面がなめらかなほど良いとは限りません。わざと荒らして近くの層を乱すと勢いが増し、離れる場所が後ろへずれて後流が細くなります。摩擦は増えるのに、全体では抵抗が減ることがあるのです。乱流は悪いものという思い込みは、この得を見落としています。ただし荒らせば必ず得になるわけではなく、速さと大きさしだいで、条件を外せば抵抗はかえって増えます。
解説動画: はく離のメカニズム/金野祥久
広がっていく流路で起きる: 舞台になるのは、流路が広がっていく場所。自動車のボンネットの後ろ、飛行機の翼の後ろ、船の後ろを思い浮かべればよい。手前が狭く先が広いので、連続の式から下流ほど流速は小さくなるはず、というところから話が始まる。
流れは圧力の高い方へ進む: 流路が広がった先ほど流速は小さく、圧力は下流側のほうが高い。つまりこの辺りでは圧力の低い方から高い方へ流れが進んでいることになり、一見不自然に見える。それでも進めるのは、流体がすでに速さを持っていて急には止まれないから。慣性があるので、遅くなっても順方向に進む。
表面近くだけが押し負ける: その理屈が成り立たない場所が物体の表面近く。摩擦のせいで流速が遅く、表面に接した流体の速度はゼロ。速度分布は上のほうが素直に順方向で、下へ行くほど遅い。この遅い流体は下流から押し返してくる力に勝てず、逆向きに流れてしまう。
ぶつかって流線が浮き上がる: 前から来る順方向の流れと、表面近くを戻ってくる逆流がどこかでぶつかり、押し合いへし合いになる。後ろから流体が来続けるので下へは潜れず、上へ行くしかない。ここで流線が物体の表面から離れる——離れるのではなく「はがれる」と言う——これが剥離で、その場所が剥離点、英語でセパレーションポイント。
境界層があるから起きる: 粘性の影響で流速が遅くなっている、物体の表面付近の領域が境界層。英語ではバウンダリーレイヤーと呼ぶ。外側の流れの99%より遅いところまでを境界層と定義することがある。この遅い領域があることによって剥離が起きる、というのが講義の結論。