抗力

粘りと抵抗

流れの向きに物体を押していく力

どんな現象?

流れの中の物が、流れと同じ向きへ押される力です。自転車で速さを倍にすると、向かい風の手ごたえはおよそ四倍になります。身の回りの速さでは速さの二乗におよそ比例して増えるからです。ごく小さな粒がゆっくり落ちる場面では、この増え方は当てはまりません。

なぜ起きるか

生まれ方は二つあります。ひとつは表面の摩擦で、壁ぎわの流体が面に運動量を渡し、面を後ろへ引きます。もうひとつは前後の圧力差です。前では流れがせき止められて強く押し、後ろでは流れが面から離れて圧力が戻りきりません。前から押す力が後ろから押し返す力に勝ち、差が後ろ向きの合力として残ります。言いかえれば、物が流体を押しのけた反作用です。

どこで見られるか

自転車の向かい風がそのままこの力です。強風で傘の骨が裏返るのは、布が受ける力が体ごと持っていくほど育つからです。雨粒が落ちながら一定の速さに落ち着くのも、抗力と重さがつり合うためで、この速さを終端速度と呼びます。高速で走る列車の先頭が長く伸びているのも、この力を減らす形を探した結果です。

勘違いしやすいところ

細長い形なら必ず抵抗が小さいとは限りません。ゆっくりした流れでは摩擦が主役なので、表面積のぶん増えることがあります(流線形なら必ず抵抗が小さいという思い込み)。重い物ほど速く落ちるように見えるのも、重さそのものではなく抗力とのつり合いが決めています。同じ形なら、軽いほうが早く抗力に追いつかれて速さが頭打ちになります。

解説動画(海外・英語): Understanding Aerodynamic Drag/The Efficient Engineer

抗力は2種類の力の合計: 物体の表面には2種類の力がかかります。面に沿って働くせん断応力は流体の粘りによる摩擦から、面に垂直に働く圧力の応力は物体まわりの圧力の分布から生まれます。これを流れの向きに足し合わせたものが抗力で、前者からくる分を摩擦抗力、後者からくる分を圧力抗力と呼び分けます。

剥離すると圧力抗力が跳ねる: 圧力抗力は球のようなずんぐりした形で大きく、正体は前と後ろの圧力差です。流れが加速している間は下流ほど圧力が下がりますが、途中で減速に転じると下流ほど圧力が高い状態になり、壁ぎわの流れが押し返されて面から離れます。これが剥離で、後ろに低圧の領域ができます。

80度から120度へ遅らせる: なめらかな球では、層流のときおよそ80度の位置で剥離が始まります。境界層が乱れていると層の間で運動量が行き来するため、より強い圧力の上りにも耐えておよそ120度まで剥離が遅れ、圧力抗力が大きく下がります。ゴルフボールのディンプルや翼の渦発生器はこれを狙った仕掛けです。

摩擦抗力では乱れが逆に働く: 一方摩擦抗力は、乱れた境界層のほうが壁ぎわで速度の変わり方が急なぶん大きくなります。旅客機の主翼と尾翼で層流を保てれば抗力全体を10〜15%減らせるという見積もりがあり、翼にあけた小さな穴から空気を吸い出して乱れへの移行を遅らせるハイブリッド層流制御も試されています。

サメの肌をまねる: サメのうろこには流れの向きにそった目に見えないほど細かい筋があり、乱れた境界層の壁ぎわを変えて摩擦抗力を下げます。同じ微細構造の人工サメ肌を旅客機に貼ると抗力全体が2%下がるという研究があり、燃料費では大きな節約になりますが、製造の難しさから実用化はまだ広がっていません。