船の航跡

波と不安定

船の後ろに広がるくさび形の波の帯

どんな現象?

船の後ろに、決まった角度のくさび形の帯が伸びます。深い水では開き角が全体でおよそ39度に落ち着き、小舟でも大型船でもほぼ同じです。帯の中には、進む向きに直角な横波と斜めに並ぶ波が重なっていて、両方が交わるところにとがった山ができます。岸を強く洗うのは、たいていこの山です。

なぜ起きるか

船はいろいろな長さの波を同時に作りますが、深い水の波は長いものほど速いので、後ろに残れるのは船と歩調が合う波だけです。残った波の山どうしが強め合う線が決まった向きにそろい、それがあの角度になります。速さを上げても、歩調の合う波が長いほうへ移るだけなので角度は動きません。浅い水でフルード数が1を超える場合や、ごく小さく速い物体では狭まり、細かい条件ははっきりしていません。

どこで見られるか

湖や港の遊覧船、川をさかのぼる小舟、橋の上から見下ろす貨物船。上空や衛星の画像では何キロも続く筋として写り、通過して何分も残ります。池のカモが泳ぐときにも同じ形が出るので、大きさによらないことが身近な水面で確かめられます。ただし風のさざ波が強い日は形がつぶれて見えません。

勘違いしやすいところ

速い船ほどくさびが鋭くなると思われがちですが、深い水では速さを変えても開き角は同じです。変わるのは帯の中の波の間隔と高さのほうで、岸を洗う力もそちらで決まります。徐行の指示は角度ではなく波の高さの話なので、混同すると意味を取り違えます。浅い水では前提が変わることも忘れずに。

解説動画(海外・英語): Kelvin Ship Wake Angle/Andrew Ochadlick

求めるのはV字の半分: 船が水面を進むと後ろにV字の航跡ができる。この講義が出そうとするのは、中心線から航跡の外縁までの角、つまりVの半分で、これがケルビン航跡角と呼ばれる。前提は深い水で、そこでは波の群速度が位相速度のちょうど半分になる。この一点だけで角が決まっていく。

位相の速さと群の速さ: 波の山そのものが進む速さが位相速度、山の集まりである塊が進む速さが群速度。深い水では群が進む間に、山はその2倍の距離を進む。位相速度は重力加速度(およそ毎秒毎秒9.8メートル)と波長で決まり、波長が長い波ほど速い。目に見えるのは群のほうだ、という区別が効いてくる。

船速の20%刻みの輪: 板書では正確に描けないので図を使う。過去の船の位置から、船の速さの20%刻みで位相速度の輪を描く。いちばん外の輪は船に追いついた波で、内側の輪ほど波長が短い。今の船の位置から各輪へ接線を引き、その中点に印を打つ。ここが講師の言ううまい手で、印が群のいる場所になる。

3分の1のアークサイン: 打った印はすべて一つの円の上に並ぶ。今の船の位置からその円へ接線を引けば、そこが波の届く限界で、そこまでの角が半角になる。円の半径を1とすると船までは3つぶん、半角は3分の1のアークサイン、およそ19.47度。V全体ではその2倍になる。

浅い水と、残る条件: 浅い水では位相速度と群速度がほぼ等しくなり、印は接線の先端近くへ移って、角は90度に近づく。講師は詳しく調べれば船の寸法・速さ・旋回・水深でも航跡角は変わると断り、作図の元はWhithamの『Linear and Nonlinear Waves』、厳密に描くならStokerの『Water Waves』を挙げる。