カルマン渦
渦と後流
物の後ろで左右交互に並ぶ渦の列
どんな現象?
棒や柱のような丸い物に流れが当たると、後ろに渦が左右交互に、規則正しく並んで流れていきます。乱れているのにはっきりした周期があり、速さが2倍になれば渦が離れる回数もおよそ2倍です。周期は物の太さと流れの速さでだいたい決まり、その関係はストローハル数という数で読みます。
なぜ起きるか
流れは丸い物の前半では表面に沿えますが、いちばん太いところを過ぎると押し戻す向きの圧力に負けて表面から離れます。離れた流れは物の後ろで内側へ巻き込み、片側に渦が育ちます。育った渦は反対側から回り込んだ流れに切り離されて下流へ運ばれ、今度は反対側で同じことが始まります。この交代が止まらないので、渦は片側ずつ交互に並んでいきます。
どこで見られるか
橋脚の下流、川に立てた杭のうしろ、風の中の電線やアンテナ。強い風で電線が低くうなるのは、この渦が1秒に数十回から数百回も離れる周期で空気が押されるからです。衛星画像では、海に浮かぶ島の風下に雲が渦の列になって並ぶのが見えます。工場の煙突や海中の柱でも、同じ列が何時間も続きます。
勘違いしやすいところ
渦が物にぶつかって揺れるのではありません。片側ずつ離れるたびに横向きの力が交互にかかるから揺れます。渦の周期が物自身の揺れやすい周期に近づくと揺れが育ち、煙突や配管では対策が要ります。渦がきれいに並ぶのはある速さの範囲に限った話で、速すぎれば列は崩れます。
解説動画(海外・英語): The Fluid Flow around an Infinite Cylinder | Deep Dive Maths/Jeffrey Chasnov
島の風下から竪琴まで: この渦の列は、海の島を風が越えるときの大気の流れにも現れる。渦が次々に離れていく現象は、身近な高速道路でおかしなふるまいを引き起こすこともある。古代の楽器エオリアンハープがもの悲しい音で鳴るのもこれで、サンフランシスコのエクスプロラトリアムの近くには、とりわけ大きく美しいハープが立っている。
1911年、止まらない水槽: ゲッティンゲンでプラントルは、学生カール・ヒーメンツに円柱の後ろの剥離を観察する水路を作らせた。狙いは境界層の理論が計算した剥離点の検証で、そのためにはまず定常な圧力分布が要る。ところが流れは激しく振動した。プラントルは「円柱が真円ではないのだろう」と言い、丁寧に削り直しても、水路の左右対称を疑って調整しても止まらない。
週末に出た答えと、本人の但し書き: 毎朝「流れはもう定常になりましたか」と尋ねるフォン・カルマンに、ヒーメンツは決まっていつも振動していますと沈んだ声で答えた。カルマンは週末に渦の並び方の安定性を計算し、互い違いの列こそ安定な配置だと突き止める。ただし本人は発見者を名乗らなかった。ボローニャの教会の壁画には聖クリストフォロスの足の後ろに互い違いの渦が描かれ、アンリ・ベナールは先に観察していた。名前を惜しむ彼にカルマンは「パリではアンリ・ベナール通りと呼べばいい」と返し、二人は友人になったという。
レイノルズ数を上げていくと: レイノルズ数がゼロだと円柱の前後で流れが対称になるが、それは現実の流れではない。6あたりを超えると後ろに二つの渦が貼りついたまま残り、上は時計回り、下は反時計回りに回って、水はそこに閉じ込められて下流へ出ていかない。50までは流れはまだ定常で、これがプラントルたちの探していた状態だった。
46で振動へ、その先は乱流: レイノルズ数45で定常だった流れを60まで上げると振動が育ち、渦度がちぎれて周期的な渦の列になる。45へ戻すと振動は静まり、元の定常流へ返る。非線形力学ではこれを超臨界ホップ分岐と呼び、実験では切り替わりがおよそ46と見積もられている。105では貼りついた渦が列と干渉しはじめ、さらに上げれば層流と乱流の乱流側——動画は3900、角柱まわりで2200の映像を紹介する。