ソリトン
波と不安定
形を保ったまま進む一つの盛り上がり
どんな現象?
山が一つだけの盛り上がりが、形も高さも変えないまま長い距離を進みます。波の列ではなく単独で現れ、背の高いものほど速く、幅は狭くなります。二つが出会っても壊れず、互いを通り抜けて元の形に戻り、進み方のずれだけが残ります。ぶつかっても記憶を残さないのが特徴です。
なぜ起きるか
普通の波は、長さごとに速さが違うせいでばらけて形を失います。いっぽう浅い水では背の高い部分ほど速いため、山は前へ立ち上がって尖ろうとします。ばらけようとする働きと尖ろうとする働きが打ち消し合うと、押し出す力と戻す力がどこでも釣り合い、形の変わらない盛り上がりだけが残ります。どちらかが強すぎればこの釣り合いは崩れ、普通の波の列に戻ります。
どこで見られるか
浅い水路で船を急に止めると盛り上がりができ、長い距離を崩れずに進みます。大潮のころに川をさかのぼる段の立った波、海の内側を進む波が衛星の画像に縞として写るもの。光ファイバーの光のかたまりや渋滞の列の解析にも、形が保たれる仕組みとして同じ考え方が持ち込まれています。起きやすいのは深さに対して背の高い波です。
勘違いしやすいところ
津波はソリトンだと説明されることがありますが、そのままは当てはまらない場合が多いです。実際の津波の伝わり方は多くの成分の重なりで、距離とともに形が変わります。壊れない波という言い方も、条件がそろった浅い水での話に限られ、深い海や急な地形では成り立ちません。
解説動画(海外・英語): Lecture 1 - Introduction to Solitons/Stefano Cremonesi
1834年、運河での追跡: スコットランドの技師ジョン・スコット・ラッセルは、運河の舟の設計を良くする仕事でエディンバラ近くのユニオン運河にいた。1834年8月、2頭の馬が引く舟が急に止まると、船首のまわりで荒れていた水のかたまりが舟を置き去りにして前へ転がり出す。丸くなめらかな一つの水の山は形も速さも変えずに進み、馬で追った本人が時速8〜9マイル・長さ約30フィート・高さ1〜1.5フィートと書き留めた。高さはしだいに下がり、1〜2マイル追った先の曲がりで見失っている。
実験室でも川の河口でも: ラッセルはこれを「移動していく波」と名づけ、水路の壁を内側へ押す、あるいはおもりを落とすという2通りの作り方で、速さ・高さ・幅を測って経験則を見つけた。同じ実験は今でも再現できる。自然にも現れる。春分には大西洋から入る潮がいちばん高くなり、漏斗の形をしたセバーン川の河口でせり上がって単独の盛り上がりになり、内陸へ10〜20マイルも遡っていく。
粒子のようだから「オン」: ソリトンという呼び名は1965年のザブスキーとクラスカルの論文から。一か所にまとまっていて粒子のようにふるまうので、電子や光子、ヒッグス粒子と同じ語尾を付けた。講義の定義は三つ。一か所に局在していること、他の波から離れていれば形も速さも変えずに進むこと、そしてほかのソリトンと衝突しても保たれること。三つめが決め手になる。
二つの効果が打ち消し合う: 式が出たのは1895年、オランダのコルテヴェーグとド・フリース(実際は約20年前にフランスのブシネスクが先)。数値実験で項を一つずつ落とすと正体が見える。非線形の項を外すと山は広がって薄れ、高さがゼロへ向かう。逆に分散の項を外すと山は前のめりに切り立ち、有限の時間で崩れる。両方あると、この壊し方の違う二つが互いを相殺して形が保たれる。
高いほど速く、すれ違っても戻る: 初期の山を高くしていくといくつかのソリトンに分裂し、分かれたうちで背が高いものほど幅が狭く、速い。速さは高さに比例し、幅は高さの平方根に反比例する。追いついた高いほうが低いほうを追い越すあいだ、高いほうはいったん背が縮む。それでも衝突後は二つとも元の形と速さに戻る。位置だけは遅いほうが少し後ろ、速いほうが少し前へずれ、この位相のずれが相互作用の中身を担う。