翼端渦
渦と後流
揚力を出す翼の先に必ずできる渦
どんな現象?
揚力を出している翼の先端から、後方へ二本の渦が伸びます。旅客機なら太さは数メートル、長さは数キロに達し、数分間その場に残ってゆっくり沈みます。湿った日には中心の圧力が下がって水が細かい粒に変わり、翼の先から白い筋が引かれて見えます。乾いた日は、同じ渦があっても目に入りません。
なぜ起きるか
揚力を出している翼では、下面の圧力が上面より高い状態になっています。翼の先端はそのふたつがつながってしまう場所なので、空気は下面から先端を回り込んで上面へ流れ込みます。この回り込みが翼を離れたあとも回り続け、後方へ長く伸びる渦になります。渦を回すのにも空気を下へ押し下げるのにも力が要り、それが誘導抗力として翼に返ってきます。
どこで見られるか
離陸直後の旅客機の翼の先、農薬をまく飛行機の後ろに白く残る二本の筋、湿度の高い日の着陸機。空港で離着陸の間隔をあけるのは、前の機が残した渦に後続機が入ると機体が急に傾く危険があるためで、大型機のあとは2〜3分あけることもあります。小さな機体ほど強く振られます。
勘違いしやすいところ
設計が悪いから出る渦ではなく、長さの限られた翼で揚力を出す以上は必ずできます。先端に立てた小さな板は渦を消す道具ではなく、回り込みを遠ざけて弱める道具です。中心の圧力が低いことと速く回っていることは同時に成り立つ二つの面で、片方がもう片方を吸い寄せているのではありません。渦は中心が低圧だから吸い込むという説明でいう吸う力という部品は無く、押しているのは外側の高い圧力の側です。渦がゆっくり沈むのも、翼が空気を下へ押した分がそのまま下りていくからです。
解説動画: 翼端過流(Wingtip Vortices)/飛行機パイロットTV
翼の先で上下がつながる: 翼の上面と下面では空気の圧力が違い、上側は低く、下側は比較的高い。空気は圧力の高い方から低い方へ流れるので、翼そのものが隔てている付け根や真ん中では上下は分かれたままだが、先端には隔てるものが無い。そこで下側の空気が上側へ流れ出て渦を巻く。機体を後ろから見ると右の翼は反時計回り、左は時計回りに回る。
ヘビー・クリーン・スロー: 迎え角を大きく取って機首を上げると、翼の上下の圧力差が増えて揚力が増し、同じだけ翼端渦も威力を増す。渦は機体が重いほど、速度が遅いほど、翼が短いほど強い。この条件がそろった状態を英語でヘビー・クリーン・スローと呼ぶ。ヘビーは大型機や燃料を多く積んだ機体、クリーンはフラップや脚が機体から飛び出していない形、スローは低速飛行のこと。
後ろを飛ぶ機体への危険: 大型機が離陸して上昇している最中や、着陸へ向けてアプローチしている最中は、その三つがそろう。小型の訓練機が大型ジェット機の後ろを飛ぶのはとても危険で、渦は小型機を墜落させる威力を持つ。これをウェイクタービュランスと呼ぶ。渦の外側は上昇気流、内側は下降気流で、ヘリコプターの吹き下ろしをまともに浴びたような状態になり、地面に叩きつけられかねない。
どれだけ離れれば良いか: 渦は毎分数百フィートの割合で沈んでいくので、前を飛ぶ機体の500〜1000フィート以内には近づかない。渦は風にも流され、風速10ノットなら毎分1000フィート流されるため、平行滑走路では隣の渦が入ってくることがある。渦は機体が離陸してから発生し、着陸すると発生しない。前の機体の離着陸から3分空ければ威力は失われると考えられていて、その間隔が決められている。