養液図鑑
植物の必須元素(組成と処方)
必須とされる元素は、どれか1つでも欠けると代わりがききません。霧で育てるときは、空気と水から入る三つを除いて、人の手で溶かして渡します。植物が育ち切るために要る元素は、ふつう17と数えられます。このうち炭素・水素・酸素は空気と水から入ってくるので、残りの14を人が水に溶かして渡すことになります。…
多量要素(組成と処方)
窒素・リン・カリウムだけでは足りません。カルシウム・マグネシウム・硫黄を加えた6つが、株の重さのほとんどを作ります。窒素は葉と茎を伸ばし、リンは根の伸びとエネルギーの受け渡しに、カリウムは水の出入りと実の肥大に効きます。カルシウムは細胞の壁をつなぐ材料として伸びる先で使われ、マグネシウムは葉緑素の中心に座り…
微量要素(組成と処方)
必要な量は少なく、多すぎると害になります。鉄・マンガン・ホウ素・亜鉛・銅・モリブデン・塩素・ニッケルの8つは、足りる量と多すぎる量の幅が狭いものがあります。鉄・マンガン・ホウ素・亜鉛・銅・モリブデン・塩素・ニッケルの8つです。鉄とマンガンは葉緑素づくりと光合成の反応に、ホウ素は細胞壁と伸びる先に…
硝酸態とアンモニア態(組成と処方)
同じ窒素でも、形が違えば効き方が変わります。アンモニア態を多く取り込むと根のまわりは酸性へ、硝酸態が多いとアルカリ側へ動きます。窒素は硝酸イオンとアンモニウムイオンの形で渡ります。硝酸は陰イオン、アンモニウムは陽イオンなので、根が取り込むときに水へ返す電荷が逆になります。そのため同じ窒素の量でも…
鉄のキレート剤(組成と処方)
鉄は、そのままでは水に残りません。キレート剤の種類で、pH がどこまで上がっても溶けたままでいられるかが変わります。水に入れた鉄は酸素があると三価に変わり、水酸化物や炭酸塩になって沈みます。キレート剤はその鉄をはさみ込み、溶けたままの姿で根まで運ぶ役です。はさむ力の強さは剤ごとに違い…
ホーグランド処方(組成と処方)
1933年に作られ、いまも比べるときの基準に使われます。肥沃な土の水を真似た処方で、薄めて使う報告が多くあります。1933年に Hoagland と Snyder がイチゴの栄養の研究のために作り、1938年に Hoagland と Arnon が微量要素を必須元素の分だけに絞りました。…
園試処方と山崎処方(組成と処方)
日本の養液栽培は、この2つを土台にしてきました。園試処方はどの作物にも使える1本、山崎処方は作物ごとに組み替える考え方です。昭和36年ごろ、農林省園芸試験場興津支場の山崎肯哉と堀裕が礫耕の実用化を目指し、日本独自の装置と一緒に礫耕用の処方を作りました。これが園試処方です。…
原水の成分(組成と処方)
処方は、水に何が入っているかから始まります。水道水や井戸水にもともと含まれる成分と、pH を戻す力は、足した肥料と同じだけ効きます。肥料を溶かす前から、水そのものがカルシウム・マグネシウム・ナトリウム・重炭酸を持っています。なかでも重炭酸はpHを押し上げ、下げようとする酸を飲み込む力を持ち…
養液のEC(ECとpH)
EC が示すのは、水の中のイオンの多さです。同じ 1.5 mS/cm でも中身の組み立ては違うので、EC だけでは足りているかどうかは決まりません。水がどれだけ電気を通すかを測った値で、溶けているイオンの総量に対応します。どのイオンかは区別しません。微量要素は入れる量が桁違いに少ないため…
養液のpH(ECとpH)
多くの作物で 5.5〜6.5 に置かれます。根の入り口の速さより、養分が水に溶けたままでいられるかどうかに効きます。水の酸性・アルカリ性の度合いです。処方した養液では、根が吸う速さそのものより、入れた養分が溶けたままでいられるかどうかに効きます。作物ごとの好みより、液の化学の都合で置きどころが決まります。…
pHと養分の溶けかた(ECとpH)
pH が上がると、鉄やリンから先に溶けにくくなります。入れた量は変わらないのに、根が受け取れる分だけが減ります。同じ量を入れても、pH によって水の中での姿が変わります。リン酸はpH 5 ではほぼ全部が H₂PO₄⁻で…
ECとpHが動く理由(ECとpH)
株は、水と養分を別々の速さで取ります。水のほうを多く取れば EC は上がり、液をためる量が少ない装置ほど、その動きは速く出ます。同じ液から、水は水の速さで、養分は養分の速さで減っていきます。コーネル大学の手引き(2013)は、養分が吸われれば EC は下がり、蒸発と蒸散で水が抜ければ EC は上がると書いています。…
根のまわりのEC(ECとpH)
槽の EC と、根の表面の濃さは同じではありません。霧の粒が根の上で乾くと溶けていた塩だけが残り、槽の数字では追えない濃さができます。霧の粒は、根に付いてから乾きます。水だけが気体になって出ていくので、溶けていた塩は根の表面に残ります。乾く速さは、粒の大きさと空気の湿り具合で変わります。粒が小さいほど…
養液の単位と換算(ECとpH)
同じ濃さが、いくつもの数字で書かれます。ppm と mmol/L と me/L、それに EC から濃度へ直す係数は器械ごとに違います。同じ濃さが、書き方によって違う数字になります。mg/L(ppm)は重さ、mmol/L は個数、me/L は電荷で数えた値で、行き来には原子量とイオンの価数が要ります。…
原液のA液とB液(調製と管理)
濃い液の中では、カルシウムが相手を選びます。硫酸イオンやリン酸イオンと出会うと溶けない粒になるため、原液は分けておいて薄めてから合わせます。使う濃さの100倍前後まで濃くした肥料の液を、二つの容器に分けて置いたものです。FAO の施設園芸の手引き(2013年)は、片方にカルシウムの肥料…
溶かす順番(調製と管理)
先に水を張り、1種類ずつ溶かしきってから次を入れます。粉が残ったまま足すと、濃いところで沈殿ができます。ねらいは液の中に濃いところを作らないことです。粉のまわりだけ濃くなると、そこでカルシウムが硫酸イオンやリン酸イオンと出会い、溶けない粒になります。だから水を先に張り、溶けきったのを確かめてから次の1種類へ移ります。…
pHの上げ下げ(調製と管理)
一度に入れると、行き過ぎて戻せなくなります。少量ずつ入れて混ぜ、数分おいてから測り直します。pH を動かす操作は、同時に養分を足す操作でもあります。下げるのに使う硝酸は窒素を、リン酸はリンを、硫酸は硫黄を持ち込みます。上げる側の水酸化カリウム・炭酸水素カリウム・炭酸カリウムはカリウムを足します(FAO 2013…
補水と追肥(調製と管理)
減った分を水で戻すか、肥料ごと戻すかで別の話になります。EC を測ってから、どちらを足すかを決めます。減った液を、原水で戻すか養液で戻すかを決める場面です。株は水と養分を別々の速さで取るので、減ったぶんの中身は日によって違います。同じ量を足しても、薄まる日と薄まらない日があります。…
更新と廃液(調製と管理)
日数ではなく、崩れ方で決めます。補水と追肥を重ねるほど成分の比は元から離れるので、どこかで入れ替え、捨てかたまで含めて決めます。ためた液を作り直す判断と、出ていく液の行き先です。日数ではなく、崩れ方で決めます。補水と追肥を重ねるほど、株が取らない成分だけが液に残ります。液を回して使う系では…
養液の温度(調製と管理)
温度は、溶ける量と測る値の両方を動かします。EC 計の値は温度で変わり、液温が上がるほど水が抱えられる酸素は減ります。タンクとその中の液が持つ温度です。溶ける量・測った値・抱えられる気体の三つを同時に動かします。根のまわりの温度は別の話なので(→根の温度)、ここはタンクと液の側だけを見ます。気温ではなく…
養分の動きやすさ(欠乏と過剰の見え方)
古い葉から出るか、新しい葉から出るかで分かれます。株の中を移動できる養分は下の葉から、動けない養分は先端から症状が出ます。株の中を移り歩ける養分と、いちど収まった場所から動けない養分があります。窒素・リン・カリウム・マグネシウムは新しい伸びのほうへ引き抜かれるため、足りなくなると古い葉から色が抜けます。…
カルシウムが届かない(欠乏と過剰の見え方)
液に足りていても、先端だけ枯れることがあります。カルシウムは水の流れに乗って運ばれるため、蒸散が少ない時間帯や伸びの速い部位に届きにくくなります。細胞と細胞をつなぐ壁の材料になる養分で、いちど組み込まれると株の中を移りません。運び手は蒸散が根の水を引く流れのほうで、行き先は蒸散の多い外側の葉に偏ります。…
鉄とマンガンが効かないとき(欠乏と過剰の見え方)
新しい葉の、葉脈の間だけが黄色くなります。入れた量ではなく pH とキレートの形で受け取れる分が決まるので、足す前に pH を見ます。どちらも葉緑素をつくる働きに関わる微量の養分です。鉄は古い葉にたまったまま新しい葉へ回らないため、足りなくなると上のほうの葉で…
濃すぎと薄すぎの見えかた(欠乏と過剰の見え方)
濃すぎる側は、水を吸えなくなる形で出ます。葉の縁が焼けたり水があるのにしおれたりし、薄すぎる側は色が淡くなって伸びが鈍ります。元素ごとの過不足ではなく、液全体の濃さがずれたときの見え方です。濃い側では根のまわりの浸透圧が上がり、水があるのに株の中へ入っていきません。伸びが鈍り、葉が大きく広がらなくなります。…