鉄のキレート剤
組成と処方
鉄は、そのままでは水に残りません。キレート剤の種類で、pH がどこまで上がっても溶けたままでいられるかが変わります。
何を担う成分・数字か
水に入れた鉄は酸素があると三価に変わり、水酸化物や炭酸塩になって沈みます。キレート剤はその鉄をはさみ込み、溶けたままの姿で根まで運ぶ役です。はさむ力の強さは剤ごとに違い、pHが上がるほど水酸化物イオンが鉄を奪いに来るので、どこまで持ちこたえるかが分かれます。日本でキレート鉄が手に入るまでは、水耕は礫耕より鉄欠乏が出やすく、日々の補給が欠かせなかったと寺林 2016 は書いています。
目安の範囲
オハイオ州立大学の Owen が2026年の e-GRO Alert に書いた目安では、EDTA はおよそ pH 6.5 から頼りにならなくなり、DTPA はおよそ pH 7.0 まで、EDDHA は pH 7.0 を超えても鉄を溶かしたまま保ちます。EDDHA は o,o 体の割合が高いものほど高いpHで効くとも書かれています。いずれも温室の培地で測った、およその線です。養液そのものを対象にした線ではありません。
動かすと何が変わるか
強い剤に替えれば鉄は溶けたまま残ります。ただしキレート剤そのものはpHを下げませんし、原水のアルカリ度も打ち消しません。pHを押し上げている原因を残したままだと、症状はいったん戻ってもまた出ます。神奈川県の施肥基準(令和4年)も、pHが高いと鉄・マンガン・リンの欠乏症が出ると書いています。逆に言えば、剤を替えるのはpHを戻すまでのつなぎという位置づけになります。
測りかたと直しかた
症状ではなく数字から入ります。pH計で養液を、原水の成分は重炭酸まで測ってから剤を選びます。アルカリ度が高いなら、剤を強くするより酸で下げる側が先です。見え方は鉄とマンガンが効かないときに、新しく開く葉の葉脈の間が黄色くなる形でまとめました。効いたかどうかは新しく開いた葉で判断します。すでに黄色くなった葉は緑に戻りきりません(Owen 2026)。
解説動画: Iron in Aquaponics - Part 1/ZipGrow
二つの姿の鉄: 動画は、鉄が水の中で溶ける二価と、溶けない三価の姿を行き来すると説明します。二価でいられるのは酸素が少なく、pH の低い側。空気がよく入っていて pH が高い側では三価になり、溶けずに落ちます。装置はたいてい後者の側なので、鉄だけが足りなくなるのだ、という筋道です。
はさんで溶かす: キレート剤は、その溶けない三価の鉄に分子をくっつけて、溶けたままの姿で運べるようにするものだと言います。植物自身も、根から水素イオンを出してまわりを酸性にしたり、鉄をつかむ物質を出したりする。人が足す剤は、その働きを外から補うものだという位置づけになっています。
剤ごとの持ちこたえ: どの pH まで効くかが剤によって違うと述べます。EDTA はpH 6.3 あたりまでで、それを超えると働きが落ちる。DTPA は7.5、EDDHA は9 あたりまで持ちこたえます。剤の名前は同じ「キレート鉄」でも、選び違えれば入れても溶けたままではいられません(→養液のpH)。
動画が薦めない剤: EDTA については、効く pH の上限が低いうえ、毒性があり、草を枯らす薬にも使われるとして、入れないほうがよいと述べます。話し手が自分の装置で使っているのは DTPA で、pH が低めに保てているならこれで足りる。高い側へ振れる装置なら EDDHA を、という勧め方です。
量の話はそのあと: 動画は、溶けた状態を作れたうえで、どれだけ入れるかが次の問いだと置いて締めます。鉄が効かない原因は、入っていないことだけではありません。入れても溶けなければ根まで運ばれないので、剤を選ぶ前に自分の装置の pH を知っておくという順番が、ここから出ます(→鉄とマンガンが効かないとき)。