炊く工程図鑑
合ではかる(はかる・洗う)
1合は容量180mLという体積の単位で、重さの単位ではありません。農林水産省の資料によると精白米1合は約150g、無洗米は約160gで、同じ1合でも中身の重さが変わります。一合升は体積を量る道具なので、詰め方や米の乾き具合によっても入る量は動きます。加水量を米の重さの比で決めるなら、この差が出発点になります。
重さではかる(はかる・洗う)
グラムで量ると、カップへの詰まり方による差が消えます。公表されている加水量は米の重さの1.3〜1.5倍という比で書かれているため、重さを起点にすれば比をそのまま当てはめられます。合ではかる方法との違いはここで、一合升の体積のままでは、当てはめる先の数字が手元にありません。はかりは、条件を自分で固定するための道具です。
水をはかる(はかる・洗う)
加熱で糊化(α化)が進むには水が要り、水が足りないとでんぷんは均一に糊化しません。加水量は米の重さの1.3〜1.5倍という幅で示されていて、この幅のどこを取るかが炊き上がりの硬さになります。水は米の重さの1.5倍は、その幅の上端を名指した言い方です。炊飯器の目盛りも、幅の中の一点をあらかじめ選んだものにあたります。
洗う(はかる・洗う)
洗う目的はぬか層の粉を落とすことです。ぬかに多いリン・カリウム・マグネシウムなどの無機質には、でんぷんの糊化膨潤を抑え、老化を促す働きがあると檜作進 1970 は述べていますが、根拠に挙がるのは米を用いていない植物抽出液と塩類溶液の実験です。一方で力を入れてしっかり研ぐ必要は…
最初の水を捨てる(はかる・洗う)
乾いた米は最初に最も速く水を吸います。吸水は20℃で30分あれば2時間後の約65%まで進むため、一杯目を長く置かない作法が広まりました。ただし最初の水は10秒以内に捨てるという秒数そのものを検証した公的なデータは見当たりません。ぬか層の粉が浮いた水を残さない、というところまでが確かめられる範囲です。
無洗米で炊く(はかる・洗う)
無洗米は、精白米の表面に再付着した肌ヌカを工場であらかじめ除いてあります。ぬか層由来の粉が落ちた状態なので無洗米は洗わずに炊けるわけですが、同じ1合に米が多く入ります。水を足す理由は吸水の速さではなく、この重さの差にあります。洗う工程が無いぶん、量りと水加減だけが条件として残ります。
浸す(浸す)
浸すのは吸水を進め、加熱のときに中心まで水が届かない状態を避けるためです。水が足りないと糊化(α化)が均一に進まず、冷めたときに硬いしんが残ります。吸水は初めが速く、途中から頭打ちになるので、時間を延ばした分だけ効くわけではありません。浸ける水の量も、炊くときの加水量に含めて数えます。
水温を選ぶ(浸す)
季節で浸す時間が変わる理由は、日付ではなく水温です。水温が高いほど吸水は速く飽和に近づきます。浸漬中は酵素も働き、農研機構は1〜16時間の浸漬で還元糖が増えると報告しています。浸水は夏30分・冬2時間が季節の話に見えるのは、水温という条件が書かれていないからです。記録には、時間と水温を並べて書きます。
冷蔵庫で浸す(浸す)
常温で長く浸けると、溶け出た糖質やアミノ酸を餌にして細菌が繁殖することがあります(新潟大学 大坪研一 監修)。細菌そのものは炊飯の加熱で殺菌されますが、芽胞や耐熱性の毒素が残る可能性は皆無ではないとされます。浸漬中の細菌増殖を避けるための置き場所が、冷蔵庫です。冷やしても吸水が止まるわけではありません。
玄米を浸す(浸す)
玄米や分づき米はぬか層が水の通り道をふさぐため、精白米と同じ時間では中心まで水が届きません。檜作進 1970 は、中心部の糊化が悪いと冷めたときに硬いしんができ、その部分の老化(β化)が著しく速いと述べています。白米と同じ時間で炊いて硬い、という結果はここから説明できます。浸漬を長く取る理由は、この物性の側にあります。
炊飯器にまかせる(加熱する)
炊飯モードには浸水と蒸らしの工程が組み込まれています(象印マホービン)。加熱の切り替えも自動制御なので、人が動かせる数値はほとんどありません。動かせるのは水をはかるまでで決めた条件で、浸す時間を外側で足す前提は、現在の機種には当てはまりません。外で足せる工程は、もともと想定されていません。
鍋で炊く(加熱する)
鍋や土鍋では、加熱の切り替えを自分で行います。糊化(α化)は60℃付近から始まり、完全に進むには98℃以上で約20分が必要とされるので、沸騰させたあとその温度をどれだけ保つかが仕上がりを決めます。土鍋で炊くとおいしいの中身も、まずこの時間の取り方の話になります。火加減という、炊飯器には無い欄が増えます。
沸騰させる(加熱する)
加熱を進めると、水を吸った米のでんぷんが粒の内部からほどけていく。農林水産省は60℃付近で糊化(α化)が始まるとしています。炊飯の加熱は温度上昇期約10分・沸騰期約5分と区分され、そのあとに蒸し煮にする区間が続きます。沸き立ったあとの温度は100℃付近で止まるため、ここから先は時間の話に移ります。
蒸し煮にする(加熱する)
沸騰させるあとに火を弱めて保つ区間で、米が残った水を吸いながら加熱され続ける。檜作進(1970)は、でんぷんは水分30%以下では均一に糊化できず、米は細胞の中で米のタンパク質に包まれているため、さらに多量の水が要ると述べています。浸水で足りなかった吸水も、この区間の水と熱で進みます。
湯を捨てて炊く(加熱する)
沸かした湯に米を入れ、その湯を捨ててから新しい水で炊く手順。シェフィールド大学の Menon ら(2020)はあらかじめ湯に通してから吸水させて炊く方法と呼び、湯へ無機ヒ素を移して捨てることで米に残る量が減ったと報告しています。加えた水をほぼ全量吸わせる日本の炊き干し法とは別の炊き方にあたり…
蒸らす(炊き上がってから)
加熱を終えた直後に高温を保ったまま置く区間。檜作進(1970)は米の周囲に残る水が粒の内部へ移動し、水分の均一化が進むと説明し、これが老化(β化)を遅らせることにも役立つとしています。鍋なら火を止めたあとの区間、炊飯器なら炊飯モードの終わりにあたり、加熱ではなく水の移動が起きている時間です。
ほぐす(炊き上がってから)
蒸らすを終えた直後に全体を切るように混ぜ、粒の間にこもった蒸気を逃がして水分の均一化を仕上げる工程。三菱電機は、炊き上がりの合図が鳴ったらすぐ蓋を開けて手早くかき混ぜ、余分な水分を逃がして炊きムラをならすよう案内しています。粒を動かすことより、水蒸気の逃げ道を作ることが目的で、合図から時間が経つほど作りにくくなります。
保温する(炊き上がってから)
炊き上がったごはんを高い温度のまま置く工程。農林水産省は70℃程度に保つことで老化(β化)を抑えられるとし、檜作進(1970)も60℃以上での保存を挙げています。一方で糖とアミノ酸によるメイラード反応は温度が高いほど進みます。どちらも温度と時間で動くので、同じ記録の中で分けて見ます。
水加減を直す(炊き上がってから)
硬い・柔らかいと感じたときに、次に炊く水の量を動かす工程。農林水産省の基準加水量は米の重さの1.5倍、近年の電気炊飯器では1.3〜1.4倍とされ、水は米の重さの1.5倍はこの幅の上側にあたります。幅のどこを取ったかを重さではかると水をはかるの数字で残す場所が、この工程です。多い少ないではなく…
冷凍する(しまう・戻す)
残ったごはんを凍らせて置く工程。檜作進(1970)は−10〜−20℃に凍結すると老化(β化)はほとんど起こらないとし、その理由を水が結晶してでんぷん分子が固定されるためと説明しています。硬くなる反応には液相の水が要るので、温め直すまでは変化が進みにくい状態で置かれます。凍らせるまでの時間と…
温め直す(しまう・戻す)
凍らせたごはんを加熱して糊化(α化)した状態へ戻す工程。檜作進(1970)は速やかに凍結し、必要に応じて速やかに解凍すれば、常に新鮮なα化の状態で保存できるとしています。この後半が温め直しにあたり、戻す途中で0℃付近にとどまるほど老化(β化)の帯を長く通ります。凍らせ方をそろえても、戻し方が違えば結果は変わります。…
冷蔵庫に入れる(しまう・戻す)
炊いたごはんを冷蔵室へ置く工程。檜作進(1970)は老化(β化)は温度が0℃に近づくほど速くなるとし、冷蔵庫の中で宵越ししたごはんはかなり老化が進んでいると書いています。冷蔵室のおよそ0〜5℃はその帯の中にあり、冷凍すると比べると同じ時間で硬さの変化が大きくなります。置き場所の温度は家庭でも測れます。
米を保存する(しまう・戻す)
炊く前の米を置いておく工程。農林水産省は、貯蔵中にリパーゼで中性脂質がグリセリンと遊離脂肪酸に分解され、酸化を経てヘキサナールなどになると説明しています。これが研ぐときからにおうの由来です。ほかに水分の減少、α-アミラーゼ活性の低下、でんぷんの分解による還元糖の増加も進むとされています。
おひつに移す(しまう・戻す)
炊飯器の保温から外し、木や陶器の器へ移して置く工程。保温を切るので糖とアミノ酸によるメイラード反応は止まりますが、温度が下がるため老化(β化)の側へ進みます。木のおひつが余分な水分を吸うという説明は実務で言われている段階で、吸湿量を測った資料は見当たりません。何が止まり何が進むのかを分けて見ます。