致人而不致於人

名句

篇: 虚実篇(中巻 第六)

致人而不致於人は、相手を自分の望む所へ動かし、自分は相手に動かされないという、虚実篇の一句。

原文と書き下し

「故善戰者、致人而不致於人」(故に善く戦う者は、人を致して人に致されず)。続く「能使敵人自至者、利之也;能使敵人不得至者、害之也」(能く敵人をして自ら至らしむる者は、之を利すればなり。敵人をして至るを得ざらしむる者は、之を害すればなり)。

原文の意味

原文は、戦い上手は敵を自分の望む所へ来させ、自分は敵の望む所へ引き出されないと述べる。敵が自分から来るのは利で誘うからで、敵が来られないのは害を与えるからだとし、そのあとに、敵が楽なら疲れさせ、満ち足りているなら飢えさせ、落ち着いているなら動かす、と続く。

篇の中での流れ

虚実篇の冒頭、先に戦場に着いて待つ側は楽で、あとから駆けつける側は疲れるという話の直後に置かれ、その有利を自分の側に作る話へ進む。

注釈で読みが割れるところ

この句の読みは、開いた注では大きく割れていない。曹操は「利を以て之を誘う」と短く注し、杜牧は戦国の李牧の故事を引いて具体化し、梅堯臣は「彼は労し我は佚す」と言い換える。違いは、短く言い換えるか、故事を引くかにとどまる。

よくある言い換えとのずれ

「主導権を握れ」という標語として引かれることがあるが、原文に主導権という語は無く、利で誘う、害で来させない、疲れさせる、飢えさせる、動かすという、敵の軍への具体的な働きかけが並べられている。