始如處女、後如脫兔

名句

篇: 九地篇(下巻 第十一)

始如處女、後如脫兔は、始めは娘のように静かにして敵に戸を開かせ、後は逃げる兎のように素早く動くという喩えの一句。

原文と書き下し

「是故始如處女、敵人開戶;後如脫兔、敵不及拒」(是の故に始めは処女の如くして、敵人戸を開き、後は脱兎の如くして、敵拒ぐに及ばず)。

原文の意味

原文は、始めは処女(未婚の娘)のように静かにしているので敵が戸を開き、そのあとは、逃げ出す兎のような素早さで動くので、敵が防ぐ間がないと述べる。始めと後の動き方の落差を、二つの喩えで示している。

篇の中での流れ

九地篇の終わり近くに置かれる。敵に隙が生じれば素早く入るという句に続く一句で、率然の蛇の喩えなどと並ぶ、軍の動きについての喩えの一つ。

注釈で読みが割れるところ

「処女」の喩えの中身が注で違う。曹操と李筌は、弱さを見せて敵に隙を作らせることと読み、杜牧は、敵が始めは我に何もできないと思うこと、張預は、守りでは処女の弱さのように見せて敵を怠らせることと読む。梅堯臣は、弱く見せることではなく、規矩に従って踏むことと読み、王晳は、敵に随うことと読む。「脱兎」は、どの注も素早さと読む点で揃う。

よくある言い換えとのずれ

「静から動へ」と、緩急の使い分けの標語として引かれることがあるが、注では前半の意味が、弱く見せることか、規矩に従うことか、敵に随うことかで割れていて、「処女」を単に静かさの喩えとして読むのは、そのうちの一つの読みにすぎない。