進不求名、退不避罪
名句
篇: 地形篇(下巻 第十)
進不求名、退不避罪は、進むときは名を求めず、退くときは罪を避けず、ただ人を守り主の利に合う将が国の宝だと言う一句。
原文と書き下し
「進不求名、退不避罪、唯人是保、而利合於主、國之寶也」(進みては名を求めず、退きては罪を避けず、唯だ人を是れ保ち、而して利は主に合す。国の宝なり)。
原文の意味
原文は、進むときは名声を求めず、退くときも罪を避けようとせず、ひたすら人(兵や民)を守り、その結果として君主の利にも合う、そういう将を国の宝と呼ぶ。進退の基準を、名声や自分の咎めではなく、人を保つことと君主の利に置いている。
篇の中での流れ
地形篇で、戦って必ず勝てるなら君主が戦うなと言っても戦ってよく、勝てないなら君主が戦えと言っても戦わなくてよい、という句に続き、そのあとに「卒を視ること嬰児の如し」が続く。
注釈で読みが割れるところ
君命との関係の読みが注で分かれる。梅堯臣は、命に違っても勝ちを取るほうがよく、命に従って敗れるよりよいという趣旨で注する。杜牧は黄石公の説を引き、君主が将に軍事を委ねる側の姿勢の話として読む。王晳は、戦うか戦わないかの判断は、人を保ち主の利になるかどうかだけにあると注し、何氏は、国家と士民の利になるなら進むと言う。なお、字は維基文庫の十一家注の本文では「唯人是保」で、「唯民是保」と書く本文もあり、字が揺れている。
よくある言い換えとのずれ
「君命に受けざる所あり」と並べて、現場の判断は上の指示に優先するという意味で引かれることがあるが、この句が挙げる基準は、人を保つことと主の利に合うことで、命令に背くこと自体を勧める句ではない。