兵之情主速

名句

篇: 九地篇(下巻 第十一)

兵之情主速は、兵の実情は速さを主とし、相手の及ばぬ所に乗じて備えの無い所を攻めると言う、九地篇の一句。

原文と書き下し

「兵之情主速、乘人之不及、由不虞之道、攻其所不戒也」(兵の情は速きを主とす。人の及ばざるに乗じ、虞らざるの道に由り、其の戒めざる所を攻むるなり)。

原文の意味

原文は、兵の実情は速さを主とすると述べ、その内容を、相手の間に合わないところに乗じ、相手が思いも寄らない道を通り、相手が警戒していない所を攻めることだと言い換える。速さの数値や方法は書かれず、相手の側の「及ばない」「虞らない」「戒めない」という状態が三つ並べられている。

篇の中での流れ

九地篇の中で、客となって敵地に深く入る側の心得を述べる部分に置かれ、続いて「凡そ客たるの道は、深く入れば専らなり」の句へ進む。

注釈で読みが割れるところ

「情」を、兵の実情・本性と読む注が多い。杜牧は「此れ乃ち兵の深情、将の至事なり」と、重い実情として読み、李筌は「不虞」「不戒」を敵を破る速さの条件と読む。張預は、意表を突き無備を掩う具体的な戦い方として読む。陳皥と梅堯臣は、敵の及ばない・備えない隙に乗じることを言う。

よくある言い換えとのずれ

「兵は神速を貴ぶ」と同じ趣旨として引かれることがあるが、『孫子』のこの句は「主速」で、「神速」の語は無い。速さも、相手が及ばず、虞らず、戒めない状態に乗じる速さとして書かれている。「兵は神速を貴ぶ」の出どころは、原典とのずれ図鑑の項目で確かめられる。