同じ菌の営みを、食べられるかどうかで分ける考え方。
発酵と腐敗は、どちらも微生物が食品を分解して起こる変化です。違いを決めるのは関わる菌の種類ではなく、食べて安全かどうかです。農林水産省は、微生物の働きで食品が変化したときに安全性が保たれていることを、発酵の第一条件としています。同じ材料に同じように菌が増えても、安全に食べられる状態を保てたものが発酵、保てなかったものが腐敗という扱いになります。
発酵食品は腐らないという考え方は、安全性が保たれているかどうかの境目を忘れています。発酵は腐敗を止める技術ではなく、菌が作る酸や塩の力で、腐敗を進める菌が増えにくい状態を保つ技術です。仕込んだあとに塩分が薄まったり、空気に触れたまま置いたりして条件が崩れれば、発酵させた食品も腐ります。
安全性が保たれるかどうかを仕込む側が握る手段が、塩分と酸素と温度です。生の野菜には、発酵を進める乳酸菌(Leuconostoc属・Lactobacillus属・Pediococcus属)と、腐敗を進める菌の両方が付いていて、何も手を加えなければ腐敗を進める菌のほうが数も多く、増え方も速いと、米国バージニア工科大学の資料は説明します。塩は腐敗を進める菌・酵母・カビより乳酸菌を優位に立たせ、野菜を漬け汁の下に沈めて酸素の無い状態を保つことも、同じ資料は乳酸菌を有利にする条件に挙げています。乳酸菌が作る酸と二酸化炭素は、腐敗を進める菌だけでなく、食中毒を起こす菌も抑えます。
酸っぱくなったら腐っているは、酸味と腐敗の関係を取り違えています。酸味は乳酸菌が腐敗を進める菌を抑えている証拠で、区別すべきはにおいの変化です。白い膜が張ったらカビだから捨てるという説も同じ取り違えで、なめらかな白い膜の多くは産膜酵母で、カビとは別の見分けが要ります。
一方で、見た目やにおいが普通でも、安全性が保たれているとは言えない相手もいます。ボツリヌス菌(最も注意すべき相手)は増殖しても見た目やにおいに変化が出ないことがあり、ヒスタミン(加熱しても消えない)は一度できると加熱しても減りません。糸を引く・ぬめる(納豆以外で)・虫がわいた・口に入れてしびれる・刺すの3つは、発酵の正常な変化とは別の、食べてはいけないサインです。見た目とにおいと味の順で確かめる判断は、このサインに当たらないかを確かめる作業でもあります。
出典
- 公的機関 農林水産省 『発酵』の不思議
- 公的機関・英語 Eifert JA, Boyer RR, Williams RC(Virginia Tech)(2020) Vegetable Fermentation



