用語図鑑
作業記憶(記憶のしくみ)
今この瞬間に頭に置いておける量。数個で満杯になる。電話で聞いた番号を、紙に書くまで頭の中で押さえておく——そのあいだ働いている一時的な置き場です。抱えていられるのはほんの短い間で、別のことに気を取られれば落ちます。一度に置ける塊は4前後という見積りが今の通り相場です。よく引かれる7±2は…
符号化と想起(記憶のしくみ)
覚えることは、しまう作業と取り出す作業に分かれる。覚える作業を、頭に入れる符号化と、あとで取り出す想起に分けて見ます。試験で答えが出てこないとき、入っていないのか入っているが出てこないのかで打つ手が変わります。人の名前が喉まで来て出ない状態は、後者の分かりやすい例です。しまい方と取り出し方は手当てが別なので…
忘却曲線(記憶のしくみ)
覚えた直後にいちばん速く減り、あとはゆるやかになる。覚えた直後からの減り方を線にしたもので、はじめのうちがいちばん急で、あとは平らに寄っていきます。元は無意味な音節をひとりで覚え直した1885年の自己実験です。後年の再現も同じ手続き・ひとりぶんで、規模はそこにとどまります。…
記憶の固定化(記憶のしくみ)
覚えた直後の記憶は、時間と睡眠をかけて安定していく。覚えた直後の記憶はまだ壊れやすく、時間をおくほど邪魔に強くなるという見方です。1900年前後の実験から続く筋で、覚えた直後に別の材料を入れると後の成績が落ちる、という形で確かめられてきました。いちばん揺らぎやすいのは覚えてすぐのうちで…
記憶の干渉(記憶のしくみ)
似たものを続けて覚えると、互いに邪魔をして混ざる。忘れる理由を「時間で消える」ではなく「他のものが邪魔をする」で説明する見方です。前に覚えたものが後の記憶を邪魔する向きと、後から覚えたものが前を出にくくする向きの二つに分けます。似た用語を続けて詰め込み、どちらがどちらか分からなくなるのが身近な形です。…
チャンク(記憶のしくみ)
ばらばらの情報を意味のある塊にまとめて数を減らす。1・9・4・5を一つずつ抱えると四つ分ですが、「1945年」とまとめれば一つで足ります。ばらばらの情報を意味のあるひと塊にして、数える単位の数を減らすやり方です。電話番号を三つに区切るのも同じで、中身は変わらないのに一度に載る量が増えて見えます。…
手続き記憶と宣言的記憶(記憶のしくみ)
言葉で言える記憶と、体が覚えていて言葉にできない記憶。自転車の乗り方は言葉で説明できないのに、またがれば体が動きます。言葉で言える知識と、やってみれば出てくる動きの記憶は、別々に働いています。用語や年号の暗記は前者、タイピングや発音の練習は後者にあたります。新しい出来事を覚えられない記憶障害のある人が…
注意の切り替え(注意のしくみ)
作業を移るたびに、頭の設定を切り替える時間がかかる。資料を書きながらメールを見に行くと、戻ってから元の調子になるまで一拍かかります。実験室では移るたびに数百ミリ秒ほどの遅れとして測られ、次に何が来るかあらかじめ分かっていても完全には消えませんでした。1回あたりは小さく…
うわの空(注意のしくみ)
手は動いているのに、注意が別のことへ流れている状態。行は最後まで進んだのに、何が書いてあったか出てこない——手が動いているのに、注意が内側の考えへ流れる状態です。研究ではマインドワンダリングと呼びます。厄介なのは逸れたことに気づかないまま続く場合があるところで、気づいた時点で初めて手が打てます。…
認知負荷(注意のしくみ)
一度に処理させられる量。多すぎると理解も記憶も落ちる。手順書と画面を往復しながら操作する場面が分かりやすい例です。行き来そのものに頭が使われて、肝心の中身へ回る分が減ります。作業記憶の狭さを出発点に、一度に処理させられる量から教材や手順の作り方を考える枠組みの語です。要素が多すぎれば理解も記憶も崩れると見て…
自動化(注意のしくみ)
くり返した動作が、注意を使わずに走るようになること。キーの位置を探さなくなる、標識の文字が見ようとする前に読めている——くり返した処理が注意を使わずに走る状態です。練習の初めは伸びが速く、あとは伸びが小さくなる形になります。手が勝手に進むぶん注意が空くので、その空きを別のことへ回せるようになるのが、この語の値打ちです。…
メタ認知(学びの言葉)
自分が今どれくらい分かっているかを自分で見張る働き。この章はもう言える、ここは怪しい、という自分への見立てと、それを受けて次に何をやるかを決める働きを合わせた語です。前者が見張る側、後者が手を打つ側にあたります。見立てを外すと、まだ言えていない箇所に時間を使わないまま先へ進むので、勉強の配り方ごと外れていきます。…
わかった気(学びの言葉)
読んでいて楽に感じることを、覚えたと取り違える。教材をもう一度読むと文字を追うのが楽になり、その滑らかに読めた感じを覚えた証拠と取り違える現象です。手応えは読みやすさの反映なので、知っている感じが強くなっても、閉じてから取り出せるかどうかは別に動きます。覚えている最中の見立てがこの向きにずれることは…
望ましい困難(学びの言葉)
その場では手間だが、あとの思い出しやすさを上げる難しさ。練習しているあいだの出来は下がるのに、後の思い出しやすさは上がる種類の手間を指します。Bjork が1994年に名づけた言葉です。間をあけて復習すると、その場では思い出しにくく感じますが、後日のテストには残ります。手応えと後の成績が逆を向くことがあるので…
学びの転移(学びの言葉)
覚えたことが、別の場面でも使えるかどうかの度合い。覚えたことが別の場面でも使えるかどうかの度合いです。Barnett と Ceci が2002年に、場面がどれくらい離れているかを複数の軸で整理したので、近い遠いは程度の話として扱います。同じ形式の問題に届くのが近い側で…
メタ分析(確かめ方の言葉)
同じ問いを扱った複数の研究を数字でまとめて見る方法。同じ問いを扱った研究をいくつも集め、効いた向きと大きさを数字でまとめて見る方法です。1本の実験には偶然の当たり外れが混ざるので、束にして平均と幅を見ます。この図鑑が「くり返し確かめられている」と書くときの主な根拠がこれで、1本の報告より重いものとして扱っています。…
効果量(確かめ方の言葉)
効いた・効かないではなく、どれくらい違うかを表す数。効いた・効かないではなく、どれくらい違うかを表す数です。二つの群の差を、そのばらつきの大きさで割って出します。Cohen の d や g と書かれます。教室での小テストを束ねたメタ分析ではg≒0.5で、差がばらつき半分ぶんあるという意味になります。…
対照群とランダム化(確かめ方の言葉)
やらない人と比べ、割り振りをくじで決めて差を見る。技を使った群と使わない群を同じ材料で並べて、差を見る組み方です。どちらに入るかをくじで決めると、やる気や元の学力の偏りが両方の群へ散らばります。人が選んで割り振るとやる気のある側へ寄り、差の出どころが分からなくなります。…
再現性(確かめ方の言葉)
別の人がもう一度やって同じ結果が出るかどうか。同じ手順でもう一度やり直し、前と同じ向きの結果が出るかどうかを指します。心理学の研究100件を別のチームが追試し直した検証では、同じ向きで有意だったのは約36%でした。効果量も平均するとおよそ半分に縮んでいます。同じ人がやり直すのではなく…
出版バイアス(確かめ方の言葉)
差が出た研究ばかりが世に出て、出なかった研究が埋もれる。差が出た研究は論文になり、差が出なかった研究は机の引き出しに入ったまま公表されにくい、という偏りです。同じ問いを調べた実験のうち、効いたと出たものだけが世に出れば、あとから集めて平均した値は本当より大きく見えます。目に入る報告が行われた実験の全部ではない…