作業記憶

記憶のしくみ

今この瞬間に頭に置いておける量。数個で満杯になる

どういう意味?

電話で聞いた番号を、紙に書くまで頭の中で押さえておく——そのあいだ働いている一時的な置き場です。抱えていられるのはほんの短い間で、別のことに気を取られれば落ちます。一度に置ける塊は4前後という見積りが今の通り相場です。よく引かれる7±2は、提唱者が大まかな見当として出した数です。買い物を五つ頼まれて二つ落とすのは、この狭さから見ればありふれたことです。

どこで出てくるか

資料を見ながら手を動かす作業でいちばん先に埋まるのがここなので、一度に載せる数を減らす手当てが効きます。ばらばらの情報を塊にするチャンクや、教材の要素を減らす認知負荷の考え方がその代表です。用事を覚えずに外へ出しておく思い出させる仕掛けを外に置くも、狭さを前提にした逃げ道です。作業の途中で別件を割り込ませないのは、置いたものを落とさないための守りにあたります。

取り違えやすいところ

短期記憶という呼び方と重なりますが、こちらは抱えたまま操作する働きまで含みます。容量そのものを訓練で広げる話とは分けて読む必要があります。課題を続ければ似た課題は伸びますが、知能や読解への波及は確認できていません(デュアルn-back訓練)。「数個しか置けない」は、外に書き出す・区切るという手当ての出発点になります。

解説動画(海外・英語): Working Memory | Baddeley & Hitch 1974 | Memory | Cognitive Psychology/Psychology Unlocked

一つの箱ではない: 短期記憶を単一の貯蔵庫として語るのをやめ、Baddeley と Hitch が働きの違う部品の集まりとして組み直したモデルの解説です。部品は全体を仕切る中央実行系と、音を扱う音韻ループ、見た目と配置を扱う視空間スケッチパッド、そして長期記憶とのやりとりを担うエピソードバッファの四つだと説明します。

音を扱う部品: いちばん働きが分かっているのが音韻ループで、聞いた情報を一時的に置く場所です。中は二つに分かれ、耳から入った音をためる音韻ストア(内なる耳)と、必要な間だけ言葉を口の中で言い直して保つ構音のはたらき(内なる声)があります。内なる声で唱え続けている間だけ手元に残る、という形です。

見た目を扱う部品: もう一つの部品が視空間スケッチパッドで、視覚と空間の情報を受け持ちます。こちらも二つに分かれ、形や色といった見た目をためる視覚キャッシュと、物の並び方を記録して中央実行系へ渡す内的書記があります。中央実行系そのものは配分役に近く、自分では多くを処理しないと説明されます。

二重課題で分ける: 根拠として挙がるのは二つの作業を同時にやらせる実験です。同じ部品を使う二つは互いに邪魔をしてやりづらく、違う部品なら同時にこなせます。お腹をなでながら頭をなでるのは骨が折れ、頭をたたきながらアルファベットを言うのは楽だ、と自分で試せる例を出します。

分かっていない所: 事故で脳を損傷した患者の例では、言葉の記憶が損なわれても視覚的な情報の学習と想起はほぼ保たれており、部品が別々に働くことの裏づけとして紹介されます。ただし中央実行系とエピソードバッファは分かっていることが少なく、全体像には届いていないモデルだと動画自身が認めています。