手続き記憶と宣言的記憶

記憶のしくみ

言葉で言える記憶と、体が覚えていて言葉にできない記憶

どういう意味?

自転車の乗り方は言葉で説明できないのに、またがれば体が動きます。言葉で言える知識と、やってみれば出てくる動きの記憶は、別々に働いています。用語や年号の暗記は前者、タイピングや発音の練習は後者にあたります。新しい出来事を覚えられない記憶障害のある人が、鏡に映して線を引く課題では回を追って上達した——この例から分かれ方が見えてきました。前者は言えるかどうかで確かめられますが、後者はやってみせるまで分かりません。

どこで出てくるか

手が動くようになる側の技を説明するときに使います。迷わず出るまで繰り返すは正しくできてからさらに重ねる段階の技で、思い出せた回数より反復と間隔が土台になります。動作をつけて覚えるで確かめられているのが動作の句までで、知識の暗記へ広げられないのも、この分かれ方が背景にあります。言葉で言える側は思い出す練習の担当で、閉じて言えるかを試す形が中心です。

取り違えやすいところ

体で覚えるという言い方が気合や根性の話に読まれがちですが、ここでは記憶の種類の区別です。注意が空くかどうかを指す自動化とも別で、あちらは種類ではなく働きのしかたを言います。右脳型・左脳型のような脳の型分けとも関係がありません。特定の症例で見えた分かれ方を、自分の状態の説明へ持ち込む読み方もできません。言葉で説明できないことは、身についていない証拠にはなりません。

解説動画(海外・英語): What happens when you remove the hippocampus? - Sam Kean/TED-Ed

発作を止めた手術: 1953年、くり返す発作に苦しんだ若い男性が、脳の一部を取り除く手術を受けました。発作はほとんど消え、人柄も変わらず知能検査の点はむしろ上がったのですが、新しい記憶が作れなくなりました。日付が分からなくなり、同じ話をくり返し、食事を続けて何度もとってしまう。取り除かれたのは海馬と呼ばれる場所でした。

15分だけ持てる: 調べに来た研究者が数字をひとつ伝えると、彼は口の中でくり返し唱えることで15分ほど保っていられました。ところがその5分後には、検査を受けたこと自体を忘れていました。それまで記憶はひとまとまりと考えられていましたが、短いあいだ手元に置く働きと長く残す働きが別だという最初の手がかりになりました。

鏡ごしに星をなぞる: もう一つの検査では、二重に描かれた星の細い隙間を、紙と鉛筆を鏡ごしにしか見られない状態でなぞらせました。初めてこの妙な課題に向かう人と同じく最初はひどい出来でしたが、回を重ねるうちに上達していきました。前にやった覚えはまるで残っていないのに、やり方だけが身についていたのです。

知識と技の別れ道: ここから分かったのは、名前や日付や事実の記憶と、自転車に乗る・署名を書くといったやり方の記憶が別ものだということです。前者を宣言的記憶、後者を手続き記憶と呼びます。「知っている」と「できる」を切り分けるこの見方が、その後の記憶研究をずっと支えてきたと動画は結んでいます。