菌図鑑
麹菌(コウジカビ)(麹・カビ)
日本の発酵を、ほぼ全部支えている。学名 Aspergillus oryzae。味噌・醤油・日本酒・みりん・酢のすべてに関わるカビの一種で、2006年に日本醸造学会が「国菌」として認定しました。蒸した米や麦、大豆の表面で菌糸を伸ばし、白い花のような姿になります。
青カビ(チーズの)(麹・カビ)
食べられる青カビと、危険な青カビ。ペニシリウム属のうち、Penicillium roqueforti(ブルーチーズ)や P. camemberti(白カビチーズ)など、食用として選抜された種があります。同じ属には毒素を作る種も多く、パンに生えた青カビとは別物です。
白カビ(チーズの)(麹・カビ)
外から内へ、熟成が進んでいく。Penicillium camemberti など、チーズの表面を白く覆うために選抜されたカビです。カマンベールやブリーの、あの白い皮そのものが菌の集まりです。同じペニシリウム属には毒素を作る種も多く、台所に自然に生える白いカビとは別物です。
クモノスカビ(テンペ菌)(麹・カビ)
白い菌糸で、大豆を板に固める。Rhizopus 属のカビで、蜘蛛の巣のように白い菌糸を伸ばすところから名が付きました。インドネシアのテンペを作る菌で、日本でも一部の麹(中国由来の餅麹)に関わります。麹菌と違い、菌糸が長く伸びて材料同士を結び付けます。
乳酸菌(乳酸菌)
酸を作って、他の菌を寄せつけない。糖を分解して乳酸を作る細菌の総称で、単一の種ではありません。ラクトバチルス属、ラクトコッカス属など多数が含まれます。動物性(乳由来)と植物性(漬物や味噌由来)に大きく分けられ、植物性のほうが過酷な環境に強い傾向があります。
ロイコノストック(乳酸菌)
漬物の、口火を切る菌。野菜の表面にいて、漬物の発酵をいちばん最初に始める乳酸菌です。キムチやザワークラウトの初期に増え、乳酸だけでなく炭酸ガスと酢酸も作る(ヘテロ型)ので、仕込んだ直後に泡が出るのはこの菌の働きです。
耐塩性乳酸菌(テトラジェノコッカス)(乳酸菌)
塩分20%の中でも働ける。醤油や味噌のもろみのような、塩分18〜20%を超える環境でも生きて働ける乳酸菌です。ふつうの乳酸菌はこの濃度では動けません。醤油の酸味と、香りの土台をつくる菌として知られます。
ブルガリア菌とサーモフィルス菌(乳酸菌)
2種でないと、うまく固まらない。ヨーグルトの発酵は、この2種の乳酸菌が助け合って進みます。ブルガリア菌(Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus)とサーモフィルス菌(Streptococcus thermophilus)。片方が出した物質をもう片方が使うので…
酵母(酵母)
糖からアルコールと炭酸ガスを作る。Saccharomyces cerevisiae が代表で、パン、ビール、ワイン、日本酒のすべてで働く同じ種です(用途ごとに選抜された別の株を使います)。カビでも細菌でもなく、単細胞の菌類です。
産膜酵母(酵母)
表面にだけ、膜を張る酵母。漬物や味噌の表面に、白くなめらかな膜を張る酵母の総称です(ピキア属など)。カビと間違えられて捨てられることが最も多い相手ですが、正体は酵母で無害です。酸素のある液面でしか増えられないので、必ず「表面」に出ます。
耐塩性酵母(ジゴサッカロミセス)(酵母)
塩と糖の中で、香りをつくる。高い塩分や高い糖度でも生きられる酵母です。醤油や味噌の熟成後期に働き、あの独特の香ばしい香り(HEMFなど)を作るのがこの酵母。一方で、ジャムやシロップを腐敗させる原因菌でもあります。
酢酸菌(酢酸菌・その他)
アルコールを、酢に変える。アセトバクター属などの細菌で、エタノールを酸化して酢酸に変えます。つまり酢を作るには、まず酒が要る—— 米から日本酒、日本酒から米酢、という順序になります。
納豆菌(酢酸菌・その他)
熱にも乾燥にも負けない、強すぎる菌。Bacillus subtilis var. natto。土壌や稲わらにいる枯草菌の一種で、芽胞(がほう)という耐久形態を作れるため、100℃の加熱でも死にません。この強さが、蒸した大豆に納豆菌だけを繁殖させられる理由です。
リネンス菌(酢酸菌・その他)
あの強烈な匂いの、正体。Brevibacterium linens。ウォッシュタイプのチーズの表面で育つ細菌で、オレンジがかった粘りのある皮を作ります。エポワスやマンステールの、あの匂いの主です。
プロピオン酸菌(酢酸菌・その他)
チーズの穴を、開けている菌。エメンタールチーズ(アニメで描かれる穴あきチーズ)の穴を作る菌です。乳酸菌が作った乳酸を食べて、プロピオン酸と酢酸と二酸化炭素に変えます。この二酸化炭素がチーズの中に閉じ込められて、丸い穴になります。
黄色ブドウ球菌(入ってはいけない菌)
毒素は、加熱しても壊れない。人の皮膚や鼻の中に普通にいる細菌で、とくに手指の傷や湿疹のあるところに多くいます。食品の中で増えると、エンテロトキシンという毒素を作ります。
セレウス菌(入ってはいけない菌)
米と、加熱後の放置が好き。土や穀物に広くいる細菌で、納豆菌と同じく芽胞を作るため、加熱しても死にません。加熱した食品を常温で放置すると、生き残った芽胞が発芽して増えます。
腐敗をおこす菌(シュードモナス・セラチアなど)(入ってはいけない菌)
ぬめりと、色と、においで出てくる。水回りや土壌に広くいて、水分が多く塩分と酸が薄い場所で増える細菌です。ぬめり、ピンクや緑の色、生臭い匂いを出すのが特徴。発酵に使う菌ではなく、守りが崩れたときに入れ替わりで優位に立つ相手です。