乳酸菌
乳酸菌
乳酸菌は、糖を分解して乳酸を作る細菌の総称で、ひとつの種の名前ではありません。ヨーグルト、漬物、醤油など身近な発酵食品で働き、作る乳酸が酸性の環境をつくるので、保存のための発酵の中心になり、腐敗菌や病原菌が増えにくくなります。種によって働きや温度の好みが違うので、ヨーグルトと漬物と醤油では使われる菌が同じではありません。
どんな菌?
糖を分解して乳酸を作る細菌の総称で、単一の種ではありません。ラクトバチルス属だけで2020年3月時点に261種あり、性質・生態・遺伝子の面で非常に多様だとされます。2020年の分類の見直しでは、このラクトバチルス属を、新しい23の属を加えた25の属に分け直す提案がされました(Zheng ら)。そのため、古い資料と新しい資料で、同じ菌の属名が違うことがあります。
何をするか
乳酸菌は乳酸を作り、周りを酸性にします。Adam Ragusea の動画は、食品微生物学者 Carla Schwan の話として、pHが4.6を下回るとボツリヌス菌は増えられなくなると紹介しています。酸が十分に出る前に止めると、リステリア菌・大腸菌・サルモネラ菌が残ることがあります。乳酸発酵の仕組みは、ATPを増やすことより、NADHを酸化してNAD+を作り直す役割が中心です(Khan Academy の解説)。
好む環境
野菜の発酵は、酸素が少ないか無い環境で起きます。野菜を漬け汁の下に沈めると嫌気の状態が保たれ、乳酸菌に有利になります(米国バージニア工科大学の資料)。温度は、華氏68〜72度(約20〜22℃)が最良とされます。高すぎると腐敗菌が優勢になり、発酵が台無しになることがあります。塩分には、細胞にプロリンなどを取り込んで浸透圧に対抗する種もあり、Ragusea の動画は、キャベツでは重さの2〜2.5%が目安と紹介しています。
関わる食品
ヨーグルト、キムチ、ザワークラウト、漬物などが代表的です。ヨーグルトでは、乳の糖を分解して乳酸を作るラクトバチルス属の菌が、独特の味のもとになります(Khan Academy の解説)。漬物では、最初にロイコノストックが働き、酸に強い別の乳酸菌に主役が移ると、Ragusea の動画は説明しています。醤油のもろみでは、Mizuno ら(2024)の研究で、発酵が進むと耐塩性乳酸菌(テトラジェノコッカス)だけが細菌の中で優勢になりました。
出典
- 動画・英語 Adam Ragusea What even is lacto-fermentation?
- 動画・英語 Khan Academy Lactic acid fermentation | Cellular respiration | Biology | Khan Academy
- 公的機関・英語 Eifert JA, Boyer RR, Williams RC(Virginia Cooperative Extension, Virginia Tech)(2020) Vegetable Fermentation (FST-328)
- 論文・英語 Zheng J ら(2020) A taxonomic note on the genus Lactobacillus: Description of 23 novel genera, emended description of the genus Lactobacillus Beijerinck 1901, and union of Lactobacillaceae and Leuconostocaceae
- 論文・英語 Mizuno Y ら(2024) Dynamics of the microbiome and volatile organic compounds during fermentation and aging of soy sauce
解説動画: ぬか床の乳酸菌が糖を乳酸に変え、雑菌を抑えるまで/ゆっくり生物チャンネル【ゆっくり解説】
ぬか床で乳酸菌がしていること: 米ぬかには糖質やミネラルが含まれていて、そこに塩水を加えて発酵させると乳酸菌と酵母が住みつく。このうち乳酸菌は野菜の糖分を分解して乳酸を出す—— これで酸っぱくなり、同時に雑菌が寄りつかなくなると説明している。香りのほうは酵母がエステルという成分を作る担当で、酸味と香りで役割が分かれている。
酸が雑菌を抑えるしくみ: 乳酸菌は野菜の表面やぬか床にもともといる菌で、糖から作る乳酸が漬物の酸っぱさの正体だとしている。乳酸が増えるとpHが下がり、病原菌が生きられない環境になる—— 動画はこれを菌が自分で用意する天然の防腐剤、小さな防衛システムと呼び、漬物の安全性を守っているものだと位置づけている。
塩加減の目安: 塩は微生物を選別するフィルターでもあると捉えている。塩分が上がると他の菌は死ぬが乳酸菌は生き残るため、結果として乳酸菌が優位に立つ。大根や白菜なら野菜の重さの2〜3%が乳酸菌の動きやすい濃度で、塩分が少なすぎると腐敗菌のほうが一気に増える。寒い地方は発酵のスピードが遅く、そのぶん乳酸菌もじっくり働いて深い味になるとし、塩の量と気温の兼ね合いが味を決めるとまとめている。
かき混ぜを忘れるとどうなるか: ぬか床には乳酸菌と酵母のほかに腐敗菌も同時に住んでいる。かき混ぜが足りなかったり温度が高すぎたりすると腐敗菌が勢力を広げ、刺激臭や糸を引く粘りが出る。逆に乳酸菌が増えすぎてもpHが下がりすぎ、他の菌が死んでしまう。発酵は菌どうしが共存している状態だとして、毎日かき混ぜるのは酸素を入れてこの均衡を保つためだと説明している。