耐塩性乳酸菌(テトラジェノコッカス)

乳酸菌

耐塩性乳酸菌(テトラジェノコッカス)は、塩分18〜20%を超える醤油や味噌のもろみでも働ける乳酸菌です。

どんな菌?

醤油や味噌のもろみのような、塩分18〜20%を超える環境でも生きて働ける乳酸菌です。ふつうの乳酸菌はこの濃度では動けません。醤油の酸味と、香りの土台をつくる菌として知られます。

何をするか

もろみの中で糖を分解して乳酸を作り、pHを下げます。pHが下がることで腐敗菌が抑えられ、続いて耐塩性の酵母が働ける環境が整います。醤油の風味は、麹菌→この乳酸菌→耐塩性酵母、というリレーでできています。鹿児島大学や佐賀大学、しょうゆメーカーの研究者からなるチームが、実際の醤油蔵のもろみを次世代シーケンサーで追跡したところ、仕込み初日は雑多な細菌が多かったものの、発酵が進むにつれてテトラジェノコッカス属だけが優勢になり、42日目に耐塩性酵母(ジゴサッカロミセス・ルキシー)を加えたところで、それまで単純だった酵母の種類が急に増え、香りの成分も大きく変わったことが確かめられました。

好む環境

高い塩分(15〜20%以上)に耐え、常温で長い時間をかけて働きます。酸素はほとんど必要としません。

関わる食品

醤油、もろみ、味噌、魚醤。醤油の仕込みが「1年」と言われるのは、この遅い働きを待つ時間でもあります。

出典

  1. 論文・英語 Mizuno Y, Yoshimura T, Sawada K, Tsuge K, Nagano Y, Yoshizaki Y, Goto M, Kobayashi G(2024) Dynamics of the microbiome and volatile organic compounds during fermentation and aging of soy sauce

解説動画: 【醤油1】醤油の造り方 How to make soy sauce/くまさんの YouTube 農業大学

塩が微生物を選ぶ: 動画はまず塩の話から入ります。塩は浸透圧が高いので、近くにあると微生物の中の水分が外へ引き出されてしまう。そのため腐敗菌を含む多くの微生物は死んでしまいます。塩は防腐の力が高いのです。ところが、その塩がある環境でも動ける乳酸菌と酵母がいて、醤油づくりはこの菌たちに支えられているのだと続けます。

麹が酵素を用意する: 作り方は製麹と仕込みの二段階です。蒸した大豆と小麦に種麹をふりかけ、三日ほど培養すると醤油麹ができあがります。ここで麹菌(コウジカビ)が用意するのが二つの酵素で、デンプンを糖に変えるアミラーゼと、たんぱく質をアミノ酸に変えるプロテアーゼ。この二つの酵素が、あとの工程を丸ごと支えることになります。

もろみで麹菌は止まる: 醤油麹に食塩水と乳酸菌と酵母を加え、醸造タンクで一体にしたものがもろみ(醤油の実)です。ここで塩が効いて、麹菌そのものは活動を止めてしまいます。塩は腐敗を防ぐために欠かせませんが、その塩が麹菌自身も止めてしまうわけです。それでも先に作られた酵素は塩があっても働き続ける、と種明かしをします。

糖が酸味に変わる: 仕込みから一週間ほどで糖とアミノ酸がそろい、この糖が乳酸菌と酵母のエサになります。ここから二か月かけて発酵が進み、乳酸菌は糖から乳酸や酢酸を作って、醤油に酸味と奥行きを与えます。なめたときに塩気と一緒に感じる、あの酸味の出どころです。糖はアミノ酸と結びついて、あの赤黒い色も作ります。

香りへつなぐリレー: 最後は酵母の番です。同じ糖を餌にして、醤油特有の香り成分とアルコールを生み出します。動画はこの流れを微生物たちによるバトンリレーと呼び、麹菌が渡した糖を、乳酸菌と酵母が順に受け取っていくと整理します。塩に強い菌がそろって初めて成り立つ受け渡しで、このあと圧搾と火入れを経て瓶詰めの醤油になります。