酢酸菌

酢酸菌・その他

酢酸菌は、アセトバクター属などの細菌で、エタノールを酸化して酢酸に変えるため、酢を作るには先に酒が要ります。

どんな菌?

アセトバクター属などの細菌で、エタノールを酸化して酢酸に変えます。つまり酢を作るには、まず酒が要る—— 米から日本酒、日本酒から米酢、という順序になります。酸素が要る好気性で、エタノールや炭水化物を不完全に酸化します。酸化が途中で止まるため酢酸が残り、酢・コンブチャ・ココア・コーヒーの製造で中心的な役割を担います(2026年のレビュー論文)。

何をするか

アルコール+酸素 → 酢酸+水という反応を行います。産物には酢酸のほかグルコン酸とバクテリアセルロースもあります(同じレビュー論文)。セルロースの膜(ナタデココの正体)を作る種もあります。玉ねぎ酢の研究では、酵母でエタノールを作ってから Acetobacter orientalis を働かせる二段階の発酵を28℃で行いました。

好む環境

酸素が必須の好気性です。だから酢の仕込みでは液面を広く取り、空気に触れさせます。逆に、酒を密閉して空気を断てば酢にはなりません—— これが酒の保存で栓を閉める理由の一つです。開けたワインに酸素が入ると、この菌がエタノールを酢酸に変えます。続けば酢になります(TED-Ed の動画)。酸素を使う「酸化発酵」の担い手にあたります(Lynch らの2019年のレビュー論文)。

関わる食品

米酢、りんご酢、バルサミコ酢、ワインビネガー、ナタデココ、コンブチャ。ワインを開けたまま放置すると酸っぱくなるのは、空気中の酢酸菌が働くためです。酢の製造では、野生の酢酸菌 Komagataeibacter xylinus が汚染菌として増えて品質を損なうことがあります。市販の穀物酢に塩化マグネシウムを0.4%加えると、30℃で4週間その増殖を抑えられました(日本醸造協会誌の研究)。

出典

  1. 論文・英語 Głodo W, Śliżewska K(2026) Acetic Acid Bacteria: Metabolic Potential, Technological Applications and Emerging Probiotic Functions
  2. 論文・英語 Lynch KM, Zannini E, Wilkinson S, Daenen L, Arendt EK(2019) Physiology of Acetic Acid Bacteria and Their Role in Vinegar and Fermented Beverages
  3. 論文・英語 Lee S, Lee JA, Park GG, Jang JK, Park YS(2017) Semi-Continuous Fermentation of Onion Vinegar and Its Functional Properties
  4. 論文 多山賢二・荒木彩・鈴木麻希・岡本洋子(2020) 食酢汚染菌 Komagataeibacter xylinus の増殖に及ぼす種々の物質の影響
  5. 動画・英語 TED-Ed The beneficial bacteria that make delicious food - Erez Garty

解説動画: 日本酒から米酢へ、酢酸菌に働いてもらう仕込み方/オトコ中村

酢ができるまでの3段階: 米から米酢までを3段階で整理している。麹菌の酵素がデンプンをブドウ糖に変え、酵母がブドウ糖をアルコールと二酸化炭素に分け、最後に酢酸菌がアルコールと酸素を結びつけて酢酸と水を作る。酢を作るにはまず酒が要るという順序で、酢酸菌の出番はいちばん最後になる。アルコール1%以上の自家醸造は酒税法違反にあたるので、原料の酒は市販のものを使うこと。

酢酸菌はどこから来るか: 種菌は果実や花の表面に付いている酢酸菌を使い、レーズンやりんごの種を入れて仕込む(季節を問わず手に入るのが理由)。レーズンはオイルコーティングされていないものを選び、1日で一粒残らず取り出す—— 長く漬けるとレーズンの味が移るため。仕込みには市販の酢も加える。酸に弱い産膜酵母の発生を抑えられ、酸に強い酢酸菌だけが働ける状態になるという理屈。

酢酸菌が働く条件: アルコールは酢酸菌のえさだが、濃度が高いと殺菌作用で活動できず、濃すぎると死滅する。そこで日本酒を水で割り、アルコール分が8〜10%になるよう調整する(理論上は6%程度でも酢としての酸度は足りる)。濃いめにするのは、発酵中にアルコールと酢酸が揮発するぶんを見込んでのこと。温度は30℃前後で最も活発、20℃を下回るとほとんど活動が止まる。

蓋の加減と、できたあとの保存: 酢酸発酵には酸素が要るので、容器の蓋は密閉しない。ただしアルコールと酢酸は揮発するうえ、開けすぎるとゴミや虫が入るため、空気だけが通るくらいのわずかな隙間にとどめる。発酵が進むほどアルコールの味が引いて酸味が立つので、匂いと味見で頃合いを見る。仕上がったら密閉容器に満タンに入れて空気を断つと品質が安定し、減って空気に触れる面が増えたら冷蔵庫に移す。