プロピオン酸菌

酢酸菌・その他

プロピオン酸菌は、乳酸菌が作った乳酸を食べてプロピオン酸・酢酸・二酸化炭素に変え、その気泡でチーズに穴を開ける菌です。

どんな菌?

エメンタールチーズ(アニメで描かれる穴あきチーズ)の穴を作る菌です。乳酸菌が作った乳酸を食べて、プロピオン酸と酢酸と二酸化炭素に変えます。この二酸化炭素がチーズの中に閉じ込められて、丸い穴になります。

何をするか

乳酸を、主な栄養(炭素源)にします。乳酸には鏡像の形(L型・D型)があり、この菌はふつうは両方を使います(L型を使えない株の報告もあります)。2012年の論文は、温かい部屋での熟成中、プロピオン酸が酢酸の約2.2倍(モル比)の割合でできると整理します。エメンタールでは、脂肪の分解(風味づくりに関わる)の主役もこの菌だと、2008年の論文は書きます。

好む環境

2012年の論文によると、エメンタール型のチーズは10〜14℃で2〜3週間置いたあと20〜24℃の温かい部屋へ移し、そこで菌が育ちます。4〜6℃の冷蔵室では大きく遅れますが、4℃でも菌は動き続けます。酸素が1%未満の条件でも約20%の条件でも育てた2025年の実験があり、酸素を嫌うとは言い切れません。

関わる食品

エメンタール、グリュイエール、ジャールスバーグ。穴の数や大きさは、菌が出すガスの量だけでは決まりません。2015年の論文は、干し草の粉の量を変えたエメンタールの内部を30〜130日目にX線CTで追い、粉に含まれる植物の微粒子がガスの集まる核になり、穴の数と大きさを量に応じて変えることを示しました。

出典

  1. 論文・英語 Dalmasso M ほか(2012) A Temporal -omic Study of Propionibacterium freudenreichii CIRM-BIA1T Adaptation Strategies in Conditions Mimicking Cheese Ripening in the Cold
  2. 論文・英語 Dherbécourt J, Falentin H, Canaan S, Thierry A(2008) A genomic search approach to identify esterases in Propionibacterium freudenreichii involved in the formation of flavour in Emmental cheese
  3. 論文・英語 Cocuzzi R, Turgay M, Schmidt RS, von Ah U, Bachmann H-P, Weisskopf L, Fröhlich-Wyder M-T(2025) A single-nucleotide variant conditions the ability vs. inability of Propionibacterium freudenreichii to utilize L-lactate
  4. 論文・英語 Zhang R, Sha Y, Chamlagain B, Edelmann M, Savijoki K, Piironen V, Deptula P, Varmanen P(2025) Oxygen determines the requirement for cobalamin but not riboflavin in the growth of Propionibacterium freudenreichii
  5. 論文・英語 Guggisberg D, Schuetz P, Winkler H, Amrein R, Jakob E, Fröhlich-Wyder MT ほか(2015) Mechanism and control of the eye formation in cheese

解説動画: なぜスイスチーズの「穴」は、現代になるほど消え始めているのか【ゆっくり解説】/ゆっくり台所研究所

穴を作っている3種: エメンタールの製造には3種類の菌を使うと説明します。まず2種類の乳酸菌が乳糖から乳酸を作り、そのあとにプロピオン酸菌が乳酸を食べて、二酸化炭素とプロピオン酸に変えます。熟成庫は19〜24℃という温かさに保たれていて、そこに数か月置くあいだにこの菌が活発になります。3種が順に働いて1つのチーズになる、という組み立てです。

ガスが穴になるまで: 外側の皮が硬く、生まれた二酸化炭素は逃げ場がありません。ガスは弾力のある生地を内側から風船のように押し広げ、丸い空洞になります。同時に生まれるプロピオン酸が甘くナッツのような風味を作る。この説明は1912年と1917年に発表された論文以来、100年以上世界中の教科書に載り続けたと述べます。

穴が消えた20年: ところが1990年代後半から自動搾乳システムが広がり、ミルクが外気に触れないまま運ばれるようになると、穴が減り始めました。決められた温度で菌も入れているのに開かず、穴の無いものや、行き場を失ったガスが生地に入れた亀裂が続出します。品質の低下から閉鎖に追い込まれた工房もあったと語ります。

核になっていたもの: 2015年、スイスの研究機関が原因を発表します。干し草の細かなちりが毛細管に抱え込んだ空気が核になり、そこへ二酸化炭素が集まって泡になっていた。熟成中の内部をCTスキャナーで追い、混ぜる干し草の粉末の量を変えた実験で穴の数との関係を確かめたとし、シャンパングラスの底から泡が立つのと同じ原理だとします。

菌だけでは開かない: 解決は干し草の粉末をひとつまみ戻すことでした。巨大なチーズ1個に対してナイフの先ほどの量で穴が復活し、毛細管を持たない粒を混ぜたときは開かなかったとも述べます。プロピオン酸菌が作るのはガスと風味で、それが穴の形になるかどうかは生地の側の条件しだい。ひとつまみのちりの有る無しで、同じ菌でも結果が変わっていました。