納豆菌
酢酸菌・その他
納豆菌は、芽胞という耐久形態を作れるため加熱や保存でも死ににくい、稲わらにいる枯草菌の一種です。
どんな菌?
Bacillus subtilis var. natto。稲わらなどにいる枯草菌の一種で、芽胞(がほう)という耐久形態を作れます。稲わらから分けた424株を調べた論文では、納豆を作れたのは59株だけで、それらはひとまとまりの系統をつくっていました。同じ枯草菌の仲間の芽胞は熱に強く、加熱や保存では死に切りません(パンの糸引きを調べた総説)。この強さが、蒸した大豆に納豆菌だけを繁殖させられる理由です。
何をするか
大豆のたんぱく質を分解してうま味(アミノ酸)を出し、同時にポリグルタミン酸(γ-PGA)という粘り成分を作ります。あの糸は納豆菌が作った物質です。納豆づくりに使う亜種では、遺伝子に変異が入って粘り成分を作る力が落ちた株がしばしば現れます。工場では品質管理の課題になります(2025年の論文)。ビタミンK2を多く作ることでも知られます。
好む環境
40℃前後で最も活発です。酸素を好む好気性で、酸素が少ないと増えにくくなります。納豆を作れる株は、ビオチンという栄養素を自分ではほとんど作れない性質と強く結びついています(稲わらの株を調べた2011年の論文)。同じ枯草菌の仲間(Bacillus subtilis・B. amyloliquefaciensなど)には、小麦粉に生き残ってパンの糸引き(ロープ病)を起こす種もいます。
関わる食品
納豆。パンに使う小麦粉でも、同じ枯草菌の仲間が「糸引き」と呼ばれる腐敗(ロープ病)を起こすことがあります。イタリアの研究チームが市販の小麦パン56個を調べたところ、30個で糸引きが起き、分けた61株のうち3割超は96℃10分の加熱後も糸を引く力を保っていました。家庭でもパン種や糠床を扱う日は納豆を避けるという配慮が効きます。
出典
- 論文・英語 Kubo Y, Rooney AP, Tsukakoshi Y, Nakagawa R, Hasegawa H, Kimura K(2011) Phylogenetic analysis of Bacillus subtilis strains applicable to natto (fermented soybean) production
- 論文・英語 Noguchi M, Tanizaki Y, Kudo K, Noguchi M, Yakabe S, Kojima K, Hira D, Kadooka C, Ekino K, Nakayama Y, Oka T(2025) Insertion of IS4Bsu1 or IS1182Bsu1 into the oligopeptide-permease gene cluster reduces γ-polyglutamic acid production in Bacillus subtilis subsp. natto
- 論文・英語 Pacher N, Burtscher J, Johler S, Etter D, Bender D, Fieseler L, Domig KJ(2022) Ropiness in Bread—A Re-Emerging Spoilage Phenomenon
- 論文・英語 Pepe O, Blaiotta G, Moschetti G, Greco T, Villani F(2003) Rope-Producing Strains of Bacillus spp. from Wheat Bread and Strategy for Their Control by Lactic Acid Bacteria
解説動画: 芽胞から発芽する納豆菌と、乳酸菌との関係/納豆ちゃんねる
ネバネバの中の芽胞: 納豆の粘りを顕微鏡で見ると小さなツブツブが見え、これが休眠している納豆菌の芽胞だと紹介している。適した環境になると芽胞から発芽し、分裂せずに一筋に伸び広がって文様のような形を描く。環境が変われば、また休眠状態の芽胞に戻る。胃酸にも負けず、生きて腸まで辿り着く強い菌の一つだとしている。
大腸菌との増える速さ比べ: 湿度と栄養、倍率をそろえた同じ環境で、納豆菌と大腸菌を同時にスタートさせて増える速さを比べている。大腸菌は20分に1回分裂する増殖の速い菌で、中には食中毒を起こすものもいるが、同じ条件で並べると納豆菌のほうが目に見えて速く増えていく。
乳酸菌を助ける: 乳酸菌は、体内で発生する過酸化水素のような活性酸素があると活動が弱まる—— 過酸化水素を分解するカタラーゼという酵素を持たないため。納豆菌はその分解酵素を持っている。そこで弱った乳酸菌に納豆菌の培養エキスを加えると、元気を取り戻して勢いよく増えたという実験を見せている。
稲わらと大豆: 水に浸して蒸した大豆に納豆菌が加わると納豆になる、という導入から始まり、最後は縄文時代に稲作と大豆が伝わり、土器で煮炊きする食文化があったところへ戻る。稲わらに付いていた納豆菌と大豆が出会ったときに納豆が生まれたと結んでいる。