様式図鑑
ルネサンス(西洋の古典)
15〜16世紀/イタリア中心。人の体と、その人が立っている空間を、目に見えるとおりに画面へ写しとろうとした絵。宗教の主題でも、床の続く部屋や奥行きのある風景の中に置かれ、平らな板に空間が生まれる。遠近法と人体の観察を道具として手にしたことが、それ以前の絵との最大の違いになる。
マニエリスム(西洋の古典)
1520〜1600年ごろ/イタリア。前の世代が到達した完成形が、あちこちで崩れて見える絵。手本どおりの均整より、引き伸ばされた体や不安定な姿勢のほうへ進む。名はイタリア語のマニエラ(手法)から来ていて、手法そのものを見せる絵と解釈されることが多い。
バロック(西洋の古典)
17世紀/イタリア・スペイン・オランダ。暗い空間に強い光を一筋入れて、劇の一場面のように見せる絵。均整より動きと感情を取る。宗教画では手前へ人物や足が突き出し、こちらの空間まで続いているように描かれる。見る人を画面に巻き込む仕掛けと解釈されることが多い。大画面の祭壇画から小さな室内画まで幅が広い。
ロココ(西洋の古典)
1715〜1770年ごろ/フランス。教会や王の広間ではなく、貴族の私室と庭のための絵。権威ではなく恋の駆け引きや遊びを主題にする。名は貝殻をかたどった室内装飾ロカイユから来ていて、壁の飾りと同じ軽さで絵も作られていると考えると分かりやすい。画面はおおむね小さい。
新古典主義(西洋の古典)
1760〜1830年ごろ/フランス。ロココの甘さを捨て、古代ギリシア・ローマの彫刻のような明快さへ戻ろうとした絵。輪郭をはっきり引き、余計な飾りを削る。主題も恋愛から公のための誓いや犠牲へ移り、絵が道徳を語る道具として使われるようになった。
ロマン主義(近代(19世紀))
1800〜1850年ごろ/ヨーロッパ各国。規則よりも、描く人が受けた衝撃のほうを取った絵。難破、革命、処刑、荒れた自然といった主題が選ばれ、画面は落ち着かない。線より色と筆の勢いで押してくるので、同じ時代の新古典主義と並べると別の言語のように見える。
写実主義(近代(19世紀))
1840〜1870年ごろ/フランス。英雄も神話も描かず、目の前にいる農民や労働者を、そのままの大きさと重さで描いた絵。美しく整えないこと自体が主張だったと解釈されることが多く、題材ではなく扱い方が新しかった。土や布の質感、汚れや疲れまで画面に残す。
ラファエル前派(近代(19世紀))
1848〜1870年ごろ/イギリス。ラファエロ以後のアカデミーの型を捨て、それより前の初期ルネサンスへ戻ろうとしたイギリスの若い画家たちの運動。文学や聖書の一場面を、草の一本まで実物どおりに描く。写実主義と同じころだが、主題はきわめてロマン的。
印象派(近代(19世紀))
1860〜1890年ごろ/フランス。物の形そのものより、その瞬間に目に届いた光と色を描こうとした絵。同じ建物でも朝と夕方では別の色になる、という当たり前を画面に持ち込んだ。輪郭は溶け、近くで見ると絵の具の斑点、離れると景色に戻る。
新印象派(近代(19世紀))
1884〜1900年ごろ/フランス。印象派の直感的な色使いを、色彩の理論に置き換えようとした絵。純色の細かい点を並べ、混ざるのはパレットの上ではなく見る人の目の中、という理屈に沿って描かれた。にじんだ輪郭がふたたび締まり、動きの止まった静かな画面が戻ってくる。
ポスト印象派(近代(19世紀))
1880〜1905年ごろ/フランス。印象派の明るい色はそのまま受け取りつつ、目に映ったままで終わらせなかった絵。光の記録よりも、画面の骨組みや描き手の気分を前に出す。ひとつの団体ではないのがややこしいところで、印象派のあと別々の方向へ進んだ画家たちを、後からまとめてこう呼んだ。
フォーヴィスム(20世紀の動き)
1905〜1910年ごろ/フランス。色を物の色から切り離した絵。木の幹が赤く、顔に緑の帯が走る。見えたとおりに塗ることをやめ、色そのものの強さだけで画面を組み立てようとした。絵の具はチューブから出したのに近い鮮やかさのまま置かれ、混ぜて濁らせない。名前のとおり荒々しい。
キュビスム(20世紀の動き)
1907〜1920年ごろ/フランス。ひとつの視点から見た形をやめ、正面と横顔、机の上と真上からの眺めをひとつの画面に同居させた絵。物を面に分解し、画面の上で組み直す。似せることよりも、立体を平面に置き換える手つきそのものを見せる絵になった。
表現主義(20世紀の動き)
1905〜1925年ごろ/ドイツ・北欧。外の景色を写すのではなく、それを見た人の中で起きたことを画面に出す絵。形はゆがみ、色は現実から離れ、不安や興奮が形そのものに現れる。同じころのフォーヴィスムが色の解放だったのに対し、こちらは気分の中身まで踏み込んでいく。
シュルレアリスム(20世紀の動き)
1924〜1940年代/フランス。夢や無意識に出てくる像を、そのまま画面へ持ち込もうとした運動。描き方はむしろ写実的で、組み合わせだけが現実離れしているものが多い。理性で組み立てるのをやめ、出てきたものを止めずに書き取るやり方を方法として使うのが出発点になっている。
浮世絵(日本・東洋)
17〜19世紀/日本(江戸)。江戸の町で売られた木版の量産画。役者、遊女、名所、相撲と、そのとき人気のあるものが題材になる。一点物ではなく版元が出す出版物で、値段も安く、町の人が気軽に買えた。肉筆で描かれたものもあるが、いま目にする多くは摺り物。
琳派(日本・東洋)
17〜19世紀/日本(京都・江戸)。金や銀の地に、大きく単純にした草花や神を置く装飾の様式。師弟でつながった流派ではなく、百年ほど間を空けて後の画家が前の画家を手本にしたつながり。同じ図柄を代ごとに描き直すので、そっくりな絵が何枚も残っている。
水墨画(日本・東洋)
13〜16世紀/中国・日本。墨だけで描く絵。色を使わず、墨の濃さと水の量で遠さも質感も出す。塗り重ねて直しがきかないので、一筆の速さと迷いがそのまま残る。中国で生まれ、禅宗の寺とともに日本へ入って、室町時代に絵の中心になった。使う道具は墨と絵筆、和紙と少ない。