浸す時間で、芯まで水が入る仕組み。
米粒の中心にはでんぷんが詰まった胚乳があり、浸した水は表面からしか入れません。中心まで届くには、表面から内側へ向かう拡散の時間が要ります。玄米の吸水をフィックの拡散第二法則で説明したところ、拡散の速さを示す実効拡散係数は5.30×10⁻¹¹〜1.56×10⁻¹⁰m²/sという小さな値になりました(Cheevitsopon・Noomhorm 2011)。値が小さいほど水は進みにくく、浸すの吸水が1〜2時間で頭打ちになるのも、進みにくさの範囲が有限であることの表れです。同じ実験では、浸漬時間に応じた水分量と粒の寸法変化をPageモデルがもっとも良く説明すると報告されています。
水が中心へ進む道をふさぐ壁が、ぬか層です。玄米は胚乳を覆うぬか層を通り抜けたあとでなければ水が中心へ進めず、玄米を浸す工程が精白米より長い時間を要するのは、水の通り道そのものが一枚増えているためです。削る度合いが浅い分づき米ほど、この壁は厚く残ります。
拡散の速さは水温で変わります。拡散の活性化エネルギーは30.46kJ/mol(Cheevitsopon・Noomhorm 2011)、精白米の表面硬さが下がる速さの活性化エネルギーはモデルにより21.3〜51.3kJ/mol(Tamura・Ogawa 2026)と報告されています。指数モデルは当てはまりの良さを示すR²が0.89、Pageモデルは0.95でした。どちらも温度が高いほど拡散は速く進むことを示しますが、5〜50℃の水で浸漬を比べると吸水の曲線は途中で交差し、十分な時間をかけて平衡に達した場合は低温のほうが温水より吸水率が高くなりました(坂本薫ほか 2015)。水温を選ぶときに温度を記録する意味は、速さだけでなく最終的にどこまで水が入るかにも関わる点にあります。
長く浸けたいときに冷蔵庫で浸す方法を選ぶのは、低い温度のまま時間をかけることで、速さを犠牲にしても高い吸水率に近づけるためです。ただし芯まで水が届いても、米のタンパク質が多い米は、少ない水で炊き切る日本の炊飯ででんぷんと水を奪い合うため、浸す時間だけでは埋め切れない差が残ります。浸す段で動かせるのは、水をどこまで中心に届けるかという一点です。
出典
- 論文・英語 Cheevitsopon E, Noomhorm A(2011) Kinetics of hydration and dimensional changes of brown rice
- 論文・英語 Tamura M, Ogawa Y(2026) Kinetic analysis of rice grain firmness during soaking and its relationship to textural-related properties
- 論文 坂本薫・森井沙衣子・上田眞理子(日本調理科学会誌)(2015) 炊飯における温水浸漬と低温浸漬が米の吸水率に与える影響
