攻略 | オトモストラテジー

漢文・書き下し・現代語訳の3つを並べて見る。

原文の一句を確かめるときは、漢文・書き下し・現代語訳を1つずつ分けて見る。漢文は句読点も送り仮名も無い字の並びで、書き下しはそこに返り点の順で読む順序と助詞・活用を加えた文、現代語訳はさらに意味を今の言葉に移した文である。この3つを重ねて見ると、原文の字・書き下しの読み方・現代語訳の言い換えが、どこで分かれるかが見える。

『孫子』計篇の冒頭で確かめる。漢文は「兵者,國之大事,死生之地,存亡之道,不可不察也」で、手がかりは文末の「也」のほかに無い。書き下しはこの字並びに読む順序と助詞を添えて「兵は国の大事なり。死生の地、存亡の道、察せざる可からざるなり」になる。「大事なり」「可からざるなり」の「なり」は、漢文の「也」が置かれた位置から導かれる言葉だが、字そのものは漢文には無い。現代語に移すなら、戦は国にとって重い出来事であり、民の生死と国の存亡を分ける道筋だから、よく見極めなければならない、という意味になる。「重い出来事」という言い方は現代語訳の段でさらに加わった言い換えで、漢文の字には無い。

計篇
計篇絵: オトモシリーズ

書き下しの元になる漢文は、1つの定まった版だけではない。十一家注孫子は、曹操から宋代までの注釈を1句ごとに並べた本で、維基文庫の翻刻は後世の編纂を重ねた末の形であり、注釈者どうしで字が違う箇所も残る。原文を確かめるときは、どの本の字を見ているかを控えておく。

十一家注孫子
十一家注孫子絵: オトモシリーズ

原文の候補は、漢文の注釈書だけではない。銀雀山漢墓竹簡のように、墓から出た竹簡という形で見つかった原文の候補もあり、そこには竹簡にだけある篇のとおり、現行の十三篇には無い篇も含まれていた。原文として確かめられる範囲は、見る資料によって広さが変わる。

銀雀山漢墓竹簡
銀雀山漢墓竹簡絵: オトモシリーズ
竹簡にだけある篇
竹簡にだけある篇絵: オトモシリーズ

篇数そのものも資料によって違う。『史記』の孫武伝では呉王闔廬が「子の十三篇、吾尽く之を観たり」と言う場面があるが、十三篇と八十二篇で確かめたとおり、『漢書』藝文志は「呉孫子兵法八十二篇」と数える。同じ藝文志は「齊孫子八十九篇」も別に載せており、孫武と孫臏で確かめたとおり、呉の孫武と斉の孫臏は別人として立てられている。句を確かめるときは、呉孫子の十三篇にある句か、別の孫子の句と混ざっていないかも見ておく。

『史記』の孫武伝
『史記』の孫武伝絵: オトモシリーズ
十三篇と八十二篇
十三篇と八十二篇絵: オトモシリーズ
孫武と孫臏
孫武と孫臏絵: オトモシリーズ

実際に確かめるときは、漢文・書き下し・現代語訳を縦に並べて書き、字と言葉の対応を1字ずつ辿る。書き下しが本によって割れる字は、両方を残し、どちらかだけを正解として消さない。現代語訳は自分の言葉で書き、資料の訳文をそのまま書き写さない。

出典

  1. 資料・中国語 維基文庫(曹操ほか十一家注) 十一家注孫子 計篇
  2. 資料 Web漢文大系 Web漢文大系 孫子(計篇の書き下し)
  3. 資料・中国語 維基文庫(司馬遷) 史記 卷65(孫子吳起列傳)
  4. 資料・中国語 維基文庫(班固) 漢書 卷30(藝文志)