攻略 | オトモストラテジー

原文・出典・自分の読みを分けて書く。

読んだ句を残すときは、三つを別の行に分けて書く。原文の字・出どころ・自分の読みである。順は原文を先に置き、出どころを次に、自分の読みを最後にする。一行に混ぜると、読み返したときに原文の字と自分の言い換えの境目が消える。

原文の行は、見た本の字をそのまま写す。同じ句でも、本によって字が違うからである。乱れは、整いの中から生まれるの句で確かめられる。十一家注孫子の勢篇は「亂生於治,怯生於勇,弱生於彊」と記す。通行本の『孫子兵法』は、末の字を「彊」ではなく「強」で記す。篇の呼び名も揃わない。十一家注は「勢篇」と立て、通行本は「兵勢第五」と数える。巻の数え方も本の中で動く。十一家注は勢篇を「卷中」、謀攻篇を「卷上」に収める。原文の行には、字だけでなく、見た本の名と篇の呼び名を添える。

十一家注孫子
十一家注孫子絵: オトモシリーズ
勢篇
勢篇絵: オトモシリーズ
謀攻篇
謀攻篇絵: オトモシリーズ

出どころの行には、書名・篇の名・巻・見た本の種類を書く。「孫子にある」までで止めると、同じ字に戻れない。通行本の『孫子兵法』は、句の脇に「一作「為」」の形で別の字を記録している。本そのものが異文を抱えているので、どの本で見たかが記録の要になる。同じ要素は、図書館の案内でも本の示し方に使われている。漢詩の出典を探す節では、書名に巻の範囲・出版者・刊年・請求記号を添えて本を示す形が並ぶ(国立国会図書館)。自分の記録にも同じ要素を置くと、後から同じ本を開き直せる。

自分の読みの行は、注の読みと分けて書く。勢篇の句には十一家の注が並ぶ。曹操・李筌・王晳・張預・杜牧・陳皥・孟氏・梅堯臣・賈林・何氏・杜佑である。読みが割れている所は割れたまま残し、どの注を読んだかを名前で控える。篇の冒頭に置かれた大軍を、少人数のように治めるの句は「凡治衆如治寡,分數是也」で、通行本も同じ字で記す。原文が揺れない所と揺れる所を分けて控えると、次に読むときの手がかりになる。

大軍を、少人数のように治める
大軍を、少人数のように治める絵: オトモシリーズ

句に付いた条件も、原文の行に写しておく。十倍なら囲み、五倍なら攻めるの経文は「故用兵之法︰十則圍之」から始まる。曹操の注は、十で一に当たって囲むのは将の智勇が等しく兵の利鈍も均しい場合だとする。同じ注は、主が弱く客が強ければ十は用いないと付ける。数字だけを控えると、前提の一行が落ちる。勝ちを見通す条件は、五つあるという句も同じで、五つの句のうちどれを読んだかを控えておく。五句は、戦えるか戦えないかを知る、兵の多い少ないの使い方を知る、上下が同じ望みを持つ、の三つから始まる。残る二つは、備えのある側が備えの無い側を待つ、将に力があって君主が抑えない、である。

自分の言葉で書く手は、ノートの研究でも扱われている。米国の大学の研究者二人は、講義のノートの取り方で三つの実験を行った。パソコンで取る学生ほど講義の語をそのまま写す量が多く、概念を問う設問の成績が低かったという報告である。同じ誌に出た直接の追試は、この結果を再現していない。追試の著者らは研究の一つをやり直し、パソコンの群が手書きの群を下回らなかったと述べる。似た八つの研究をまとめた結果も同じだった。逐語の重なりが多いほど成績が低いという関係も、追試では揺れた。写す量そのものを害と書ける根拠は、まだ揃っていない。追試では、書いた語数が多いほど成績が良いほうに傾いた。原文の行を削るのではなく、自分の言葉の行を足す向きで厚くする。

やりがちな失敗は三つある。出どころを書名までで止め、篇と本を落とす。原文の行に自分の読みを混ぜる。訳文を読みの行に写し、自分の言葉が一行も残らない。三つとも、行を分けて書いていれば、残り方で気づける。

出典

  1. 資料・中国語 維基文庫(曹操ほか十一家注) 十一家注孫子 勢篇
  2. 資料・中国語 維基文庫(曹操ほか十一家注) 十一家注孫子 謀攻篇
  3. 資料・中国語 維基文庫 孫子兵法(通行本)
  4. 公的機関 国立国会図書館 リサーチ・ナビ「漢詩の出典」
  5. 論文・英語 P. A. Mueller・D. M. Oppenheimer(Psychological Science 25巻6号)(2014) The pen is mightier than the keyboard: advantages of longhand over laptop note taking
  6. 論文・英語 H. L. Urry ほか(Psychological Science 32巻3号)(2021) Don't Ditch the Laptop Just Yet: A Direct Replication of Mueller and Oppenheimer's (2014) Study 1 Plus Mini Meta-Analyses Across Similar Studies