攻略 | オトモストラテジー

よく聞く句が、どの書のどこにあるかを確かめる。

よく聞く句を確かめるときは、まず句を正確な形で書き出す。記憶や又聞きで伝わる句は、原文の一部が省かれたり、別の句と混ざったりしていることがある。句を覚えた経路によって、省かれ方や混ざり方の癖も違う。

次に、その句が実在する書のどの篇にあるかを原文で確かめる。風林火山として知られる句は「其疾如風、其徐如林、侵掠如火、不動如山」の四句だけで広まっているが、『孫子』軍争篇の原文はこの四句の前に「兵以詐立、以利動、以分合為變者也」という一文を置き、四句のあとにも「難知如陰、動如雷震」の二句を続けた六句構成になっている。四句だけを覚えていると、原文に残る二句が見えなくなる。

風林火山
風林火山絵: オトモシリーズ
軍争篇
軍争篇絵: オトモシリーズ

彼を知り己を知れば百戦殆うからずは、謀攻篇の中の位置を確かめると見え方が変わる句である。謀攻篇は、まず「百戰百勝、非善之善者也」という一文で百戦百勝を退け、五つの条件を並べたあとで、「知彼知己者、百戰不殆」を置く。百戦百勝と百戦不殆は、同じ篇の中で別の評価として並んでいる。

謀攻篇
謀攻篇絵: オトモシリーズ

句が『孫子』にあるという思い込み自体を確かめる例もある。兵は神速を貴ぶという語は『孫子』の篇のどこにも見当たらない句で、実際は『三国志』郭嘉伝に、郭嘉が曹操へ進言した言葉として記されている。書名を確かめるだけで、句の出どころが『孫子』ではないと分かる。

兵は神速を貴ぶ
兵は神速を貴ぶ絵: オトモシリーズ

実在する『孫子』の句でも、前後を読むと条件が付く。知勝有五が挙げる五つの条件は、句だけを切り出すと一般論に見えるが、原文ではこの五つを並べた直後に「彼を知り己を知れば百戦殆うからず」へつながる位置にある。十則圍之、五則攻之、倍則分之の兵力比も、注釈者は将や兵の質が同じであることを前提にした数として読んでおり、数字だけを抜き出すと前提が抜け落ちる。

孫子の言葉として広まった句の中には、拙速のように後代の別の書の一文と混ざって対句に仕立てられたものもある。句の形・書名・篇の名を一つずつ確かめ、前後の一文まで読んでから、自分が知っていた言い換えと照らし合わせる。原文の言葉・書名・篇の名を控えておくと、同じ句を別の場面で見たときにも、自分の確かめた場所に戻れる。

拙速
拙速絵: オトモシリーズ

出典

  1. 資料・中国語 維基文庫(曹操ほか十一家注) 十一家注孫子 軍爭篇
  2. 資料・中国語 維基文庫(曹操ほか十一家注) 十一家注孫子 謀攻篇
  3. 資料・中国語 維基文庫(陳寿) 三國志 卷14(魏書・郭嘉傳)