うしかい座

春の星座

見え方: 肉眼で見える

うしかい座は、北斗七星の柄のカーブを南へ延ばした先の橙色の0等星から始まる星座です。

形のたどりかた

柄のカーブをそのまま南へ延ばします。北斗七星の柄の先から曲線に沿って約30度進むとアークトゥルスに降り、この道筋が春の大曲線です。アークトゥルスを底の角として、そこから北へネクタイか凧に似た細長い五角形が開きます。縦の長さはおよそ20度で、底の一点だけが飛び抜けて明るいのが形の特徴です。五角形の上半分は3等から4等なので、街では底が残ります。五角形の幅は10度ほどで、腕を伸ばした手のひらに収まります。

目じるしになる星

アークトゥルスはマイナス0.05等(理科年表)で、北天でもっとも明るい恒星です。表面温度は4千ケルビン台と低く、肉眼でもはっきり橙色に見えます。和名の「麦星」は、麦の刈り入れどきに南中するころによく目立つことから付いた呼び名です。五角形の上端のネッカーは3.5等で、同じ星座の中でも明るさはおよそ26倍離れています。ほかの星の名はあまり知られていません。橙色は明るさの変化ではなく、星の表面温度そのものを映した色です。

見ごろの時期と南中高度

国立天文台の位置の目安は東京で20時に中心が南中する6月下旬ですが、日本では春の星座として扱われます。星座の南のはずれにあるアークトゥルスが、中心よりひと月ほど早く宵の南の空へ届くためです。赤緯はおよそ北緯19度(理科年表)で、東京での南中高度は約73度。那覇では約83度、札幌では約66度と、日本の南北で17度ほどしか違いません。宵に真上へ来るのは初夏ですが、春の夜半にはすでに東の空高くまで昇ります。

見える範囲(緯度と空の明るさ)

アークトゥルスは市街地でも欠けません。0等台の光は、肉眼の限界等級が3等台まで落ちた空でも残るからです。一方、五角形を作る3等台の星は街では半分ほどが消え、橙色の一点だけが取り残されます。光害の少ない空でようやく形が閉じ、細長い五角形として見分けられるようになります。真上に近い高さを通るので、南の視界が悪い場所からでも探せます。街と郊外で見える星の数がこれほど変わる星座は、春の空では多くありません。

星座の中の見どころ

見どころが増えない星座です。ε星プルケリマは2.5等と4.9等の二重星ですが、離角は約3秒角しかなく、双眼鏡では一つの点のままで色の対比も出ません。明るい星団や星雲も含みません。しぶんぎ座流星群の放射点は現在この星座の北の端にあり、名前のもとになったしぶんぎ座は現存しません。放射点の名だけが残った形です(しぶんぎ座流星群)。双眼鏡を向けるより、大曲線の道筋をたどるほうがこの星座の使いどころです。

出典

  1. 資料 大日本図書 アルクトゥールス
  2. 資料 佐賀新聞 <星旅星めぐり>日欧で異なる「麦の星」

名前と物語

由来

アテナイの農夫イカリオスは、酒神ディオニュソスからぶどう酒の造り方を授かったと伝わります。分け与えた羊飼いたちが酔いつぶれて毒を盛られたと思い込み、怒ってイカリオスを殺してしまいました。娘のエリゴネーは愛犬に導かれて父の亡骸を見つけ、悲しみのあまり自らも命を絶ち、神々が親子と犬をそれぞれ星座に上げたという話が伝わっています。

和名と人が使ってきたこと

色にも理由があったと伝わります。麦星という呼び名は、麦の刈り入れどきに見えるからだけでなく、黄金色に輝くこの星の色が、穂を実らせた麦畑の色と重なって見えたためだとされます。地方によっては麦刈星、麦を刈り終えるころに梅雨入りが近いことから五月雨星とも呼ばれ、同じ時季を指す和名が複数残っています。ヨーロッパでは同じ季節、おとめ座のスピカを麦の穂先に見立てていました。同じ麦の実りを、国によって違う星で読み取ってきました。

正体と距離

アークトゥルスは約37光年先にある、水素を使い果たしてふくらんだ赤色巨星です。太陽の25倍ほどの直径を持ち、橙色に見えるのは大きくふくらんで表面温度が下がったためです。銀河のハローと呼ばれる古い集団に属する星で、天の川の円盤を横切るように、太陽系とは大きく違う向きと速さで銀河の中心を回っていると考えられています。

変わるもの

アークトゥルスは、位置の変化が初めて確かめられた星のひとつです。1718年、エドモンド・ハレーは古代の星表とみずからの観測を比べ、アークトゥルスなど3つの明るい星が恒星も動くことを示しました。銀河の中心を大きく違う向きで回っているため天球上を動く速さはとくに大きく、人の一生に近い時間でも、わずかな位置のずれが記録に残ります。