コップ座

春の星座

見え方: 空が暗ければ肉眼で

コップ座は、形が見えたならその夜の空が暗い側だと分かる、暗い星ばかりの星座です。

形のたどりかた

からす座の四辺形を西へ延ばした先に、横倒しの杯のような並びがあります。台になる脚が南、口の側が北を向き、うみへび座の長い胴の上に乗る位置です。先にからす座を見つけ、そこから拳ひとつ半ほど西へ目を移すのが早道で、高さはからす座とほぼ同じに保ちます。口を作る弧は4等前後の4つの星でできていて、この弧が閉じて見えるかどうかが形になるかどうかの分かれ目です。弧が切れているうちは空の条件が足りていません。

目じるしになる星

いちばん明るいδ星でも約3.6等です。α星には「アルケス」という固有名が付いていますが約4.1等で、主星の記号を持つ星のほうが暗いという並びになっています。目じるしは明るさではなく、からす座との位置関係のほうに置きます。杯の底にあたるα星とδ星を先に拾い、そこから口の弧をたどると形が閉じます。星の名前で覚えるより、隣の星座からの距離で覚えるほうが早く、市街地では底の2星すら拾えません。

見ごろの時期と南中高度

国立天文台の一覧では5月上旬に20時ごろ南中する位置にあり、春の宵に南の中ほどを通ります。赤緯はマイナス15度前後なので、南中高度は東京(北緯35.7度)で約39度、那覇(北緯26.2度)では約49度になります。南中の前後1時間ほどが最も条件のよい幅で、そこを外れると高度が落ちて背景の明るい層に近づきます。高度20度を切ると街の光に沈み(光害)、形をたどるのが急に難しくなります。

見える範囲(緯度と空の明るさ)

この星座が見えるかどうかが、その夜の空の暗さの物差しになります。赤緯マイナス15度なので北海道からでも南の空に昇り、緯度による制限はほとんどありません。効くのは空の明るさのほうで、4等星が見えない空では口の弧が消え、底の2星が離れて残るだけになります。15分以上暗さに目を慣らしてから見ると拾える星が増え(暗順応)、同じ場所を肉眼の限界等級の測り場所として使えます。

星座の中の見どころ

双眼鏡で見て手ごたえのある対象は、この区画にありません。星団はなく、いくつかある銀河も11等より暗いため、肉眼にも双眼鏡にも届きません。そこで、代わりの使いみちが数えることになります。杯の形を作る星が何個見えたかを、場所と時刻と月齢と一緒に書き留めます。同じ場所で4個見えた夜と2個の夜の差が、そのまま夜空の明るさの記録になり、天体ではなく空の側を測る観測に変わります。

名前と物語

由来

太陽神アポロンに命じられ、水を汲みに出たからす座のカラスが運ぶはずだった杯と伝わります。カラスはイチジクの熟れるのを待つうちに用事を忘れ、遅れた言い訳にうみへび座の水蛇を持ち出したとされます。怒ったアポロンは、カラスが二度と水を飲めないよう、杯と水蛇をカラスの届かない位置に並べて星座にしたという話が伝わっています。

正体と距離

コップ座をつくる星は、どれも目立たない晩年の巨星です。もっとも明るいδ星は太陽の20倍ほどに膨らんだ巨星で、地球からは約195光年ほど離れています。主星の役を持つα星アルケスも膨張の進んだ準巨星で、若く輝く星はこの星座にほとんど見当たりません。星座としては暗くまとまりが無くても、個々の星の正体は、恒星が年老いたときにたどる共通の姿を示しています。

変わるもの

杯の縁をつくる星々も、天球の上ではひとつひとつ別の速さで動いています。いまからす座の東に並ぶこの配置は、長い年月をかけてゆっくり崩れていくと考えられ、アポロンに届かなかったという神話の場面そのものも、星の動きとともに少しずつ違う形へ移っていきます。人の一生では気づけない、わずかな動きです。