かみのけ座

春の星座

見え方: 空が暗ければ肉眼で

かみのけ座は、形をたどる星座ではなく、4等より暗い星が一かたまりに散る領域です。

形のたどりかた

線で結ぶ形を持たない星座です。うしかい座のアークトゥルスとしし座のデネボラを結び、その中点よりやや北を見ます。そこに輪郭のない星の集まりが横たわり、5度を超える広がりを持ちます。満月十個ぶんに相当する大きさですが、一つずつの星が4等より暗いため、都市の空では領域そのものを見失います。手がかりは星座の中ではなく、両隣の1等星の側にあると考えたほうが早く届きます。デネボラの側から測ったほうが、距離を取りやすい配置です。

目じるしになる星

目じるしは単独の星ではなく、かみのけ座星団(Mel 111)という散らばりそのものです。5等から10等の星が40個ほど、およそ280光年の距離に集まっています。α星は4.3等、β星は4.2等で、名を背負う星がどちらも4等台という珍しい構成です。細かい粉をまいたような光として目に入り、星というより白い霞に近く見えます。集めれば2等前後の光量ですが、広い面に散っているため一点の星のようには見えません。

見ごろの時期と南中高度

国立天文台の位置の目安では、東京で20時に中心が南中するのは5月下旬です。星座の中心の赤緯はおよそ北緯23度で、東京での南中高度は約77度。ほぼ頭の真上を通ります。高く上がる時間帯ほど、光が通る大気の層は薄くなり、同じ空でも低い時間帯より数えられる星が増えます(大気減光)。宵に真上へ来る五月から六月が、いちばん条件のよい時期です。南中を過ぎて西へ傾くと、同じ夜でも数えられる粒が減ります。

見える範囲(緯度と空の明るさ)

空の明るさで存在ごと消えます。限界等級4等台の市街地では4等より明るい星が一つも無いので、跡形もありません。限界等級5.5等の郊外で星団がぼんやり分かるようになり、6等台の空では十数個の粒に分かれます。緯度による制約は無く、日本のどこからでも高く上がるので、決めるのは緯度ではなく空の明るさです。星座の中で唯一、条件がそのまま見え方になります。同じ場所でも、月の出ている夜には郊外でも消えます。

星座の中の見どころ

倍率を上げるほど見えなくなる対象です。星団は5度を超えて散っており、実視界7度ほどの双眼鏡でようやく全体が視野に入ります。10倍を超えると視野からはみ出し、ただの星の散らばりになってしまいます。同じ領域には黒眼銀河M64が8.5等、NGC4565が9.6等でありますが、どちらも写真の側の天体です(銀河は渦を巻いた姿で見える)。肉眼と低倍率の双眼鏡が、この星団にはいちばん合う見かたになります。

名前と物語

由来

エジプト王妃ベレニケ2世が捧げた、その名のとおりの髪と伝わります。夫プトレマイオス3世が戦争から無事に戻れるよう、王妃は自慢の髪を切って神殿に捧げたとされますが、翌朝には髪が消えていました。宮廷の天文学者コノンが、女神が空へ運び去って星座にしたのだと王に説明し、怒りを鎮めたという話が伝わっています。実在の人物の名を持つ、数少ない星座の一つです。

正体と距離

この星座の星の集まりは、見かけだけではありません。かみのけ座星団(Mel 111)は、実際に生まれをともにする数十個の星の集団で、およそ280光年先にひとまとまりで浮かんでいます。ほかの星座の多くが奥行きの違う星を平面に投影した見かけの並びなのに対し、ここは名の由来となった髪そのものが、物理的にもひとつの集団としてまとまっている珍しい例です。

変わるもの

星団は、いまの姿のまま永遠には残りません。数十個の星は重力でゆるくまとまっているだけで、天の川銀河を回るうちに受ける重力のゆさぶりで少しずつほどけていくと考えられています。星座の名を背負うα星とβ星はこの星団の仲間ではなく、たまたま同じ方向に見える別の星で、髪の房に紛れ込んだ無関係な2本の毛のような存在です。