兵は神速を貴ぶ

孫子の兵法

「兵は神速を貴ぶ」は、孫子の言葉として引かれる一句の出どころを確かめる項目。

よく言われること

「兵は神速を貴ぶ」が孫子の教えとして、迅速な用兵を説いた格言として広く引かれる。

原典では何と書いてあるか

「兵貴神速」(兵は神速を貴ぶ)という句は『三国志』魏書・郭嘉伝の本文に見える。烏丸討伐に向かう曹操に対し、参謀の郭嘉が「兵貴神速。今千里襲人、輜重多、難以趣利」(兵は神速を貴ぶ。今千里を隔てて人を襲うに、輜重多ければ、以て利に趣き難し)と進言した言葉で、重い輜重を残し身軽な兵だけで奇襲するよう勧める場面に置かれている。一方『孫子』作戦篇にあるのは「兵聞拙速」(兵は拙速を聞く)という別の句である。

どこがずれているか

「兵は神速を貴ぶ」が孫子の言葉として引かれることがあるが、この句は『孫子』の本文には無く、後代に成立した『三国志』の郭嘉伝に見える、曹操への進言の一部である。孫子自身が速さについて述べているのは「拙速」という別の語であり、「神速」とは字面も文脈も異なる。

なぜそう広まったか

「拙速」と「神速」はいずれも兵法における速さを説く語として字面が似ているため、出どころの異なる二つの句が一つの孫子由来の教えであるかのように混同されやすい。

原典に沿って言うなら

「兵は神速を貴ぶ」は『三国志』に記された郭嘉の進言であり、『孫子』が説くのは、戦を長引かせないという意味での「拙速」という別の考えである。