軍争篇

十三篇

篇: 中巻 第七

軍争篇は、有利な位置を先に取る難しさと、風林火山の四つの姿を説く篇。

原文と書き下し

「軍爭之難者、以迂為直、以患為利」(軍争の難きは、迂を以て直と為し、患を以て利と為す)。「其疾如風、其徐如林、侵掠如火、不動如山」(其の疾きこと風の如く、其の徐かなること林の如く、侵掠すること火の如く、動かざること山の如し)。「三軍可奪氣、將軍可奪心」(三軍は気を奪うべく、将軍は心を奪うべし)。「佯北勿從、歸師勿遏、圍師必闕」(佯北は従う勿れ、帰師は遏むる勿れ、囲師は必ず闕く)。

原文の意味

原文は、君命を受けた将が軍を合わせ敵と向き合うとき、軍争ほど難しいことはないと言う。難しさは、迂を直に、患を利に変えることにあり、道を遠回りして敵を利で誘い、遅れて発しても先に着くのが迂直の計だとする。全軍で急げば間に合わず、百里を争えば三将軍が擒にされ十に一しか着かず、五十里なら半ば、三十里なら三分の二が着くと数える。輜重や糧食の蓄えが無ければ軍は亡ぶとも言う。

篇の中での流れ

十三篇の第七で、数の上では中央にあたる。軍争の難しさと迂直の計、行軍の距離と輜重、諸侯の謀・地形・郷導の話のあとに「兵は詐を以て立つ」と風林火山が来る。「先ず迂直の計を知る者は勝つ」で軍争の法を結び、『軍政』の金鼓・旌旗、三軍の気と心、治心・治力・治変、用兵の戒めが続く。神藤猛(2023)は、この篇を中心に各篇が対称に呼応するという仮説を検証する。

注釈で読みが割れるところ

「以迂為直」は、曹操が遠く見せて道のりを縮め先に着くこと、杜牧が敵を欺いて油断させ急ぐこと、賈林が便利の地を先に占めること、何氏が兵を分けて奇を出すことと注す。「其徐如林」は、曹操が「利を見ざるなり」、李筌・杜牧・梅堯臣が隊列の整い、張預が両方と注す。「不動如山」は、曹操が守ること、賈林が敵の誘いにも動かないことと注す。末句は十一家注本の頁が「動如雷震」、甲府市の頁が「雷霆」と書く。

よくある言い換えとのずれ

風林火山は、武田家の旗に書かれたと伝えられる。甲府市の頁は、遺臣が納めたといわれる雲峰寺の旗の14字を、四句から「其」を省いた形と書く。作られた年は、甲府市の頁にも信玄公宝物館の頁にも無く、確かめられない。原文は「不動如山」に「難知如陰、動如雷震」を続ける。くぼ店長の仕事術(YouTube)は風林火山を臨機応変の話に、田口佳史(テンミニッツ・アカデミー)は迂直の計を「不利を有利にする戦略」に言い換える。

解説動画: 孫子の兵法⑦~軍争篇~ 風林火山 世界最高の人間関係戦略書について解説/くぼ店長の仕事術

軍争を職場や交渉に広げる: 軍争を機先を制する争いとし、迂直の計、百里・五十里・三十里の強行軍で着ける兵の割合、風林火山の4句、朝昼晩の気力の変化、「高陵勿向」以下の戒めを、職場や交渉の場面に広げて語る。

解説動画: 迂直の計――不利を有利にするための「軍争篇」の教え|田口佳史/テンミニッツ・アカデミー - 1話10分で学ぶ大人の教養講座

迂直の計を「戦略」と言い換える: 「戦略とは不利を有利にすること」と語り、迂直の計をこれに当てて経文の冒頭を読み上げ、例として信長と今川義元の戦いを挙げる。