楽しさと安全の線引き
運転中にやってよいこと・やらないことの最初の決め。
運転中にやってよいことは、走り出す前に決めておきます。決める順番は三つです。運転する人が触らない物を先に決め、次に運転する人が役をもらわない遊びを決め、最後に中断の合図を決めます。線を引く基準は一つで、運転する人の手と目を道路から外させないことです。
いちばん外側の線は、法令が引いています。道路交通法第71条第5号の5は、停止しているときを除き、手で保持しなければ通話できない装置を通話に使うことと、画像表示用装置の画面を注視することを禁じています。罰則は、手で持って使った場合が違反点数3点と6月以下の拘禁刑または10万円以下の罰金、交通の危険を生じさせた場合が6点と1年以下の拘禁刑または30万円以下の罰金です。カーナビの画面も、走行中は注視しないよう求められています(警察庁)。時速60キロで走れば、2秒間に約33.3メートル進みます。画面を見ないと進まない遊びは、最初から候補に入れません。
声だけで成り立つ遊びは線の内側に置けますが、運転する人が出題と判定を兼ねると崩れます。93件の研究・106の実験・4,382人を集めた2018年のメタ分析では、手持ちの電話もハンズフリーも、同乗者との会話も、反応時間・刺激の検出・衝突で中程度の低下が出ました。車間を空ける・速度を落とすという補いは、わずかにしか効いていませんでした。声を出すだけの遊びも、負荷のない過ごし方ではありません。しりとりや山手線ゲームは、運転する人が短く答える側にとどめます。ナンバープレート計算のような暗算や逆さ言葉のような言い替えは、出題から解答まで同乗者の側で回します。早口言葉対決は、言えたかどうかを判定する役を同乗者に渡せば、運転する人は聞き役のまま加われます。県外ナンバー探しのように外を見る遊びは、数を数えて覚える役を同乗者が持ちます。ナンバーの文字をAからZまで順に探す遊びや、黄色い車を見つける遊びも車内ゲームとして並びます(米国国立公園局のルート66のページ)。息を止める遊びにだけ、運転する人には向かないと添えてあります。
同乗者との会話が電話と違うのは、交通の様子を共有できる点です。運転シミュレータで電話・同乗者との会話・会話なしを比べた実験では、運転の誤りが電話の条件でもっとも多く、同乗者との会話では交通が話題に出ました(2008年、Drews ほか)。交通の要求が高まると、話す速度と両者の発話の複雑さが下がっていました。同乗者の側から中断が入るのは、遊びでも会話でも自然な形です。出発前に「混んできたら途中でも止める」と頼んでおけば、運転する人が断る手間が消えます。
聴くものは、線の内側に置きやすい過ごし方です。ラジオやオーディオブックの聴取は認知的な負荷が低い作業、同乗者との会話やハンズフリー通話は中程度、音声入力のメールは高い作業と位置づけられています(車内の8つの作業を一次課題・主観の評価・生理の指標で測った2015年の研究)。ラジオを聴く・ポッドキャストを聴く・オーディオブックを聴く・落語・朗読を聴くの4つは、運転する人が黙ったままでも成り立ちます。選局・選曲・聴くものの選び直しは、走行中なら画面か手元の操作になります。ドライブ用プレイリストを作る手順で出発前に並べ終えておけば、走り出したあとに触る理由が無くなります。
やりがちな失敗は三つあります。手を使わなければ安全だと考えること、遊びのやめ時を決めずに始めること、運転する人が審判を兼ねることです。音声で操作する仕組みが広まることは、交通安全に意図しない悪影響を及ぼしうると整理されています(2015年の同じ研究)。防衛運転の芯を車の周りの空間の管理に置き、2〜3秒の車間は自分の誤りにも備える余白だと説明する解説もあります(Smart Drive Test)。車内の楽しみは、その余白の中に収まる分だけ置きます。
この節に出てくる図鑑の項目
出典
- やめよう!運転中のスマートフォン・携帯電話等使用
- Does Talking on a Cell Phone, With a Passenger, or Dialing Affect Driving Performance? An Updated Systematic Review and Meta-Analysis of Experimental Studies
- Assessing Cognitive Distraction in the Automobile
- Passenger and cell phone conversations in simulated driving
- Route 66: Car Games
- 5 Defensive Driving Strategies To Be A Safer, Smarter Driver
