行軍篇

十三篇

篇: 中巻 第九

行軍篇は、地形ごとの行軍の要領と、兵は数より統率だと説く篇。

原文と書き下し

「絶山依谷、視生處高、戰隆無登」(山を絶えて谷に依り、生を視て高きに処り、隆きに戦いて登ること無かれ)。「辭卑而益備者、進也」(辞卑くして備えを益す者は、進むなり)。「兵非益多也、惟無武進、足以併力、料敵、取人而已」(兵は益々多きに非ざるなり、惟だ武進する無く、以て力を併せ、敵を料り、人を取るに足るのみ)。「令之以文、齊之以武」(之に令するに文を以てし、之を斉うるに武を以てす)。

原文の意味

原文は、山・水辺・沼沢・平地ごとの軍の置き方を述べる。山を越えるときは谷に拠り、日の当たる高所に陣取り、高みの敵に登って挑むなと言う。続けて、鳥が飛び立つのは伏兵、塵が高く尖るのは戦車の来る印、言葉がへりくだって備えを増すのは進む前触れと、敵の様子から意図を読む兆しを挙げる。兵は多いほどよいのではなく、武で進まず、力を併せ、敵を料り、人を取れば足りるとも言う。

篇の中での流れ

十三篇の第九で、九変篇の次、地形篇の前にある。山・水辺・沼沢・平地の四つの処し方のあと、「凡此四軍之利、黃帝之所以勝四帝也」と結び、高所を好む通則、六害の地、敵情の兆しへ進む。終わりは、兵がなついていないうちに罰しても服さないという話から、「令之以文、齊之以武」、平素の命令の話へ進む。Course Hero(YouTube)の動画は、日光の向き・砂ぼこり・使者の様子から敵を読む篇と紹介する。

注釈で読みが割れるところ

「兵非益多也」は、曹操が「權力均」、王晳が「權力均足矣」と力の釣り合いの話に読み、賈林は「不貴衆擊寡、所貴寡擊衆」と、少数で多数を撃つことを貴ぶ話に読む。曹操の注末に「一雲『兵非貴益多』」とあり、通行本の頁は「貴」を入れる。「惟無武進」は、曹操が「未見便也」、賈林が「專進則暴」と注す。「四帝」は、曹操・李筌・張預が黄帝の勝った四方の帝と注す一方、梅堯臣は「四軍」の誤りかと疑い、何氏が従う。

よくある言い換えとのずれ

「兵は益々多きに非ず」を「数より質」「少数精鋭」と言い換えると、原文が続ける四つの条件が落ちる。原文は、武で進まず、力を併せ、敵を料り、人を取ることを挙げ、深く考えず敵を軽んじる者は人に擒にされると続ける。この句は少数が多数に勝つとは書かない。注で少数が多数を撃つ話に読むのは賈林で、曹操・王晳・張預は力の釣り合いと注す。王晳は、武を頼むだけでなく計と智で敵を料って行くことと注す。

解説動画(海外・英語): The Art of War by Sun Tzu | Chapter 9: Marches/Course Hero

行軍篇の要点: 篇を、整った行軍と迫る敵に対する布陣の話として紹介し、日光の向きと時刻、川・山・塩沼・平地との関係、黄帝が四方の帝に勝ったという言及、雨で増水した川の扱い、砂ぼこりの高さと戦車・歩兵の別、使者の振る舞いから敵の意図を読むこと、将の命令が一貫していることを挙げる。