床の立ち上げ、毎日の世話、休ませ方。
糠床は、米糠に塩と水を混ぜて乳酸発酵させた漬け床です。仕込みの比率は、研究で使われた実験用の床が目安になります。生糠または炒り糠1800gを水2Lと塩200gで練った床は、仕込み直後の塩分が約6%、24℃に置いた38日のあいだに pH が6.0から4.0へ下がりました(杉浦らの2024年の論文)。水は糠と同じか少し多い重さから始め、握って固まる硬さに合わせます。
床を立ち上げるのは、糠そのものに住んでいる乳酸菌です。市販の糠床を80℃で30分加熱すると、1回目の漬け込みで pH が下がらず、乳酸発酵が始まりませんでした(池らの2023年の論文)。外から3種類の乳酸菌を足しても1回目の発酵は速まらず、1週間おきに3回漬け込んだあとの乳酸菌の数も、加熱していない床より大幅に低いままでした(同じ論文)。早く進めたいときに足すのは、菌ではなく熟成した床です。150年続く糠床を種に使うと、初期の発酵の時間が短くなり、pH と酸化還元電位が下がる時期が乳酸菌の増える時期と重なりました(山口らの2024年の論文)。
立ち上げの2週間は、毎日混ぜて捨て野菜を替える期間です。1日1回床を混ぜ、2日ごとに野菜くずを取り替え、くずは取り出しやすい大きさに切ります(The Ikigai Diet)。漬かるまでの目安は夏が7〜10日、秋が2週間、冬が3〜4週間で、夏は温度が高くて難しいため秋か冬に始める人が多いという話もあります(同じチャンネル)。大根や蕪の葉のような捨て野菜を入れると、水分が出て発酵が進みます(田舎そば川原)。塩だけで短い時間漬ける浅漬けと違い、糠床では床を育てる時間が先に要ります。
毎日の世話は、野菜を取り出して床の上下を入れ替える作業です。層ごとに菌の顔ぶれが違うため、底の糠を上へ、上の糠を底へ返して釣り合いを保ちます(Itadakimasu Recipe)。混ぜる操作で床の菌の構成は変わり、混ぜないままだと細菌と真菌の分布に偏りが出ます(杉浦ら)。終わりに表面を平らにならし、容器の縁に付いた糠を拭き取ります(→糠床の縁のカビ)。表面が白くなるのはカビではなく、混ぜ込めば収まります(→白い膜(産膜酵母))。黒や青のカビが出たときは、その部分を大きく取り除いてください(料理人設楽の料理道場)。
水が上がったときは、野菜を取り出して床に深い穴を掘り、たまった水を紙で吸わせます(Itadakimasu Recipe)。干し椎茸や昆布を埋めて吸わせる手もあります(料理人設楽の料理道場)。柔らかいと感じたら塩を足して元の硬さに戻します(田舎そば川原)。漬け続けると床の塩分は下がるので、塩を足して補います。24℃で40日の床では、塩を4回・米糠を2回足して塩分を保っていました(杉浦ら)。酸味が強すぎるときに、砂糖やからしを少し入れて和らげる手も紹介されています(料理人設楽の料理道場・Itadakimasu Recipe)。山椒と唐辛子を入れた床では、発酵の初めの10日間に乳酸菌の増えが良くなり、乳酸発酵の前のブドウ球菌が優勢な期間も短くなりました(小野らの2015年の論文)。測られたのは乳酸菌の増え方で、カビを抑えるかどうかではありません。
休ませ方は、止める長さで変わります。2日ほどなら野菜を取り出して容器ごと冷蔵庫へ入れ、長く家を空けるときは袋に移して冷凍します(田舎そば川原・Itadakimasu Recipe)。冷蔵は発酵を止めるのではなく、床の中身を入れ替えます。漬け込まずに5〜6℃で3か月置いた床では、乳酸菌と生菌の数と pH が下がる一方で、酵母の数が増えました(池らの2023年の論文)。冷凍から戻した床は、捨て漬けから始めて味を戻します(Itadakimasu Recipe)。2年放置した床の例では、黒く変色した表面を削ると中は普通の糠床のにおいで、新しい糠と塩を足してきゅうりを漬け直すと、1週間ほどで酸味が戻りました(オトコ中村)。削っても靴下やアンモニアのようなにおいが残るときは、再開の前に見分けの手順を確かめてください(→糠床の異臭(靴下・アンモニア))。
出典
- 論文・英語 Sugiura S, Ikeda M, Nakamura Y ほか(東海漬物 漬物機能研究所・九州大学)(2024) Impact of vegetables on the microbiota of the rice bran pickling bed Nukadoko
- 論文・英語 Ike A ほか(日本食品微生物学会雑誌)(2023) Effect of the Heat Treatment of Rice Bran Paste, Nukadoko, on Nukazuke Fermentation
- 論文・英語 Yamaguchi M, Imai K, Chen D, Seong YA, Jo K, Ito K(Current Microbiology)(2024) The Similarities in Microbial and Chemical Patterns of Fermentation in Two Open Environments were Promoted by Using 150-Year-Old Nukadoko as Starters
- 論文・英語 Ono H, Nishio S, Tsurii J ほか(2015) Effects of Japanese pepper and red pepper on the microbial community during nukadoko fermentation
- 動画・英語 The Ikigai Diet Nukazuke 101: The First 2 Weeks-Nurturing Your Rice Bran Bed
- 動画・英語 Itadakimasu Recipe Fermentation Notes | 3-Month Nukadoko Care: Reviving My Tired Pickling Bran
- 動画 【田舎そば川原】料理・漬物 【基本】ぬか床の作り方とお手入れ|ぬか漬け歴40年の技を伝承
- 動画 料理人設楽の料理道場 【プロ直伝】 キレイに仕上がる!茄子のヌカ漬けと普段のぬか床のお手入れ〜ぬかが酸っぱくなった時の対処法までプロの板前が詳しく解説します
- 動画 オトコ中村 2年間放置した糠床を復活させることはできるのか




