多層民家

屋根と間取りの型

屋根裏を二階三階に使う、養蚕のための民家です。寄棟の妻側だけを垂直に切り上げて窓を開き、蚕を飼う階に日と風を入れました。

どんな形か

一重の建物に三階分の床が入る民家です。国指定文化財等データベースは、山形県東田川郡朝日村から鶴岡市の致道博物館へ移された旧渋谷家住宅を「桁行15.4m、梁間10.9m、一重三階、寄棟造、茅葺」と記しています。屋根は寄棟造を基本に、妻側だけを垂直に切り上げて窓を並べます。切り上げた姿が兜に似るとして「兜造」とも呼ばれますが、これは通称で、指定の名称には出てきません。

なぜその形になったか

蚕です。桑を育てられる山あいでは養蚕が現金収入で、蚕を飼うには乾いて風の通る広い床が要りました。屋根裏を二階三階に区切れば、同じ屋根の下で床の面積を何倍にも増やせます。妻側を切り上げて窓を開けたのは、日と風を奥まで通し、蚕棚の湿りを抜くためです。屋根に煙出しを上げる家もあり、囲炉裏の煙は屋根裏を通って抜け、茅と棚をいぶして虫を抑えます。

見分けの決め手

妻の面が垂直に立ち上がり、そこに窓が段で並ぶかを見ます。多層民家では寄棟造の屋根の妻側だけが切り上がり、三角ではなく台形に近い輪郭になります。合掌造の切妻とは屋根の稜線の数が違い、面が四方へ落ちます。山形県鶴岡市の旧渋谷家住宅は「一重三階」と記され、外からは一階建てに見えて中に三層が入ります。階の数は窓の段数から読めます。

取り違えやすい相手

合掌造です。屋根が寄棟か切妻か、妻側だけを垂直に切り上げているかの二点を順に見ます。岐阜県大野郡白川村や富山県南砺市の合掌造は叉首を三角に組んだ切妻で、妻の面がそのまま地上まで下ります。多層民家は寄棟の面が四方にあり、妻の上だけが立ちます。どちらも屋根裏を蚕に使うため、用途からは区別できません。

どのあたりで見られるか

山形県鶴岡市の田麦俣、国指定文化財等データベースの解説が「多層民家で有名な山村田麦俣」と記す集落に残ります。旧渋谷家住宅は同じ鶴岡市内の致道博物館へ移されました。指定名称に多層民家と入る例は少なく、数え上げられる実例は多くありません。養蚕を営んだ山あいには近い形の家があり、群馬県や福島県の養蚕農家でも二階に窓を並べる造りが見られます。