浸水は夏30分・冬2時間?
洗う・浸す
原典の記述は、冬は夏のおよそ2倍という差です。4倍の開きではなく、水温が低いほど吸水に時間がかかるという方向そのものは合っています。
図: 浸した時間と、米が吸う水の進み方
檜作進(1970)の実測(20℃)。2時間で自重の20〜30%を吸い、30分でその約65%に達する。曲線は測った2点(30分・2時間)を通る形で描いたもので、その間の各点を測った値ではない。水温が下がるほど到達は遅くなる。
言われていること
「夏は30分、冬は2時間」という季節ごとの浸す時間が、料理書や米穀店の案内で数字ごと繰り返されています。水温が低いほど吸水に時間がかかるという説明とともに、季節で4倍の開きがあるという形にまとめられ、冬に短く済ませると芯が残ると続きます。芯が残ったときの原因として真っ先に挙げられるのも、この時間です。
測るとどうか
原典にあたる檜作進 1970 は冬期の予備浸水は夏期のほぼ2倍と書いており、4倍ではありません。農林水産省の目安は季節を問わず最低30分、できれば60分で、約2時間でほぼ飽和します。吸水の速さが水温で変わる方向は合っていますが、倍率だけが伝わる途中で大きくなっており、浸す時間の上限は季節では決まりません。
誰が・何を・どう測ったか
檜作進 1970(調理科学)の記述と、農林水産省「米の調理特性」の浸漬時間の記述を突き合わせたものです。夏と冬で水温に20℃程度の差があるという前提までは共通で、浸漬吸水率の測定は季節ではなく水温別に行われています。季節そのものを条件にした比較試験は見当たらず、食味官能試験で夏と冬を比べた資料も確認できていません。
だからどうする
季節に関わらず30〜60分を目安にし、冬は長めにとります。炊飯器にまかせる場合は炊飯モードに浸水の工程が含まれるため、外で時間を計る必要はありません(象印マホービン)。時間を延ばすより、水温を選ぶほうが手数が少なくて済みます。ぬるま湯を使えば、冬でも短い時間で足ります。水の温度は、指で確かめる程度で足ります。
まだ分かっていないこと
現行の炊飯器が内蔵する浸水の時間と温度は機種ごとの公表が揃わず、そこへ外から浸すを足したときの差を測った公開データは見当たりません。コシヒカリやミルキークイーンのように品種で吸水の速さが違うのかも、季節の目安には反映されていません。分づき米や玄米の目安も別に示されていません。台所の水温そのものを季節ごとに記録した資料も見当たりません。
解説動画: 新米の季節到来!お米のプロに聞く、さらにおいしくする“ひと手間”【くらしのアイデアパーク】/KSB瀬戸内海放送
研ぐより、すすぐ: 動画に出てくる米屋の店主は、いまの精米機は性能が上がっていて、手のひらでゴシゴシ擦る必要はないと話します。すすぐ程度で十分で、タオルを擦りつけるように洗うのは米にとってよくない。研いだあとの水に薄く白さが残るくらいが甘みも残っていてよい、というのが店主の目安で、力を入れてしっかり研ぐという広まった作法とは反対を向いています。
浸けて量り直す: 浸ける時間の差を見るために、動画は米100gを水に入れて1時間置き、水を切ってもう一度量ります。秤の数字は130.5gで、3割ほど重くなったことをその場で確かめます。並べて映すと、浸けたほうは粒が白く、研いだだけのものは半透明のままで、吸水の差が見た目にも出ていました。
水温5℃なら1時間: 動画はここで、水温が5℃のときは十分に吸わせるのにおよそ1時間かかるという農研機構の研究を紹介します。必要な長さを決めているのは季節ではなく水の温度だ、という置き方です。あわせて冷蔵庫で浸すと甘みが増すという話も添え、冷たい水ほど長めに見ておく、という形にまとめています。
新米でも目盛りどおり: 炊く水は、新米でも炊飯器の目盛りどおりでよいと述べます。まず同じ水加減で炊いてみて、そのうえで好みに寄せればよい、という順です。番組の進行役も、新米は水を1割減らすと聞いて実際に減らして炊いてしまい、次からは目盛りまで入れると言い直しています。減らすほうを先に置かない、という形になっています。
十文字に切って返す: 炊き上がったら十文字に切り、四つに分けたご飯を下から上へ返して空気を入れる。これで光沢と粒感が出ると説明し、粒を潰さないように盛って締めます(ほぐす)。夏と冬という言い方は最後まで一度も出てこず、動画が1時間という長さの根拠に置いたのは、季節ではなく水の温度のほうでした。