ルーアン大聖堂

印象派

クロード・モネ/1892〜94年

どんな絵か

ルーアンのゴシック大聖堂の正面を、向かいの建物の窓から間近に切り取った縦長のカンヴァス。1点はおよそ縦107cm×横73cm。空も地面もほとんど入らず、画面はほぼ石の壁だけで埋まる。石そのものより、石に当たっている光の色のほうが主役に見える。

どこを見るか

見るべきは形ではなく光の色。日向は黄や金、影は青や紫で置かれ、同じ石が時刻ごとに別の色になる。奥行きはほとんど無く、尖ったアーチの反復とパターンが画面を埋める。いちばん暗いのは入口の穴で、目はまずそこへ落ちる。そこから上へ視線が登っていく。

使われている技法

カンヴァスに油彩。絵の具を厚く盛って乾かし、その上にまた重ねるので、表面は石の肌のようにざらつく。この盛り上げをインパストと呼ぶ。現場では手早く色を置き、1894年にアトリエで手を入れて仕上げている。

描かれた背景

1892年と93年、モネは大聖堂の向かいに部屋を借り、光が変わるたびにカンヴァスを取り替えながら描いた。全部で30点以上あり、1895年には画商の店で20点をまとめて見せている。同じ対象を光違いで並べる連作の代表例として語られることが多い。

解説動画: 彫刻を描かないルーアン大聖堂と連作の狙い/フランスガイド中村 / France Guide Nakamura

この絵をどう見ているか: 画面は大聖堂の正面(ファサード)だが、彫刻の細部はほとんど描かれていない。輪郭は隣り合う色の差で示されるだけで、厚塗りのカンヴァスは砂壁のように表面がざらつくと言う。細部を描き込んでいるうちに太陽の加減は変わってしまうから、描き込みを捨ててその瞬間の光を捉えることだけに専念したのだと説明している。

同じ絵が何枚もある理由: 一瞬を1枚に描いても、光の変化そのものは描けない。そこで瞬間を描いた絵を何枚も並べる、という発想が連作だと説明する。1877年のサンラザール駅の連作では視点も時刻も変えたが、1890年からは視点も構図も動かさず、変えるのは時間帯と天気だけにした。この発想には浮世絵の影響が指摘されるとも言う。

大聖堂の角度が1枚ずつ違うわけ: 大聖堂の前の広場は狭く、かなり下から見上げないと全体が入らない。モネも同じ事情で、初めは外で描いたが、冬の寒さがこたえたのではないかと言い、向かいの建物の部屋を借りた。1892年から93年にかけて数回滞在し、そのつど別の部屋を使ったので、部屋ごとに大聖堂への角度がずれていると説明する。署名の横の94は滞在の翌年で、自宅アトリエでさらに仕上げを行ったとも語る。

連作という形が抱えるもの: 30枚以上描いて発表できたのは20点。モチーフは色を描くための口実になっていき「溶けたアイスクリームのようだ」と評されたこと、色の組み合わせだけで成立すると見たカンディンスキーが抽象画へ向かったことを挙げる。一方連作は売れると世界中に散るため、まとまって残す道として大睡蓮の国家寄贈に至ったと見ている。