ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏会
印象派
ピエール・オーギュスト・ルノワール/1876年
どんな絵か
モンマルトルの野外ダンス場に、日曜の午後の人だかりができている場面。縦131cm×横175cmの大きなカンヴァスで、踊る人、座って話す人、こちらを向く人が入り混じる。木漏れ日が地面と服にまだら模様を作っている。
どこを見るか
主役が一人もいないのが特徴。手前左のベンチの一団が三角構図をつくり、そこから奥の踊る群れへ目が流れていく。木漏れ日は青や紫の斑点として置かれ、明度の高い点と低い点が同じ強さで散らばるので、視線がどこにも止まらない。
使われている技法
カンヴァスに油彩。短く細かい筆あとを重ね、輪郭をぼかして人と光を溶かしている。影を黒ではなく青紫で置くため、シャドウの側まで色を持つ。風の強い屋外で描いたと伝えられ、同じ構図の小さい版も残っている。
描かれた背景
1876年、ルノワールは会場のそばに部屋を借りて制作し、翌年の第3回印象派展に出した。当時は「形が溶けている」と批判される一方、記者ジョルジュ・リヴィエールは高く評価している。のちにカイユボットが買い、その遺贈で国のものとなった。オルセー美術館蔵。
解説動画: 体に浮かぶ斑点の正体と、ルノワールの悩み/山田五郎 オトナの教養講座
体に浮かぶ斑点の正体: 人物の体や頭に点々が散っているのは、光、つまり陽射しだと最初に答えている。ただし当時の人にも斑点にしか見えず、斑点の出た絵はこの人は生きて大丈夫かと病気のように言われたほど叩かれ、売れもしなかったと紹介する。ここがルノワール最大の悩みどころだった、という見方を示す。
なぜ斑点になってしまうのか: 印象派の筆触分割は、ぼかさずに色をブロックで置いていく描き方で、影も黒を使わず紫などで表す。風景の描写には向くが、人物に使うと肌がどうしても斑に見えてしまう。ドガが人物に筆触分割を使わなかったのはそのためだと指摘し、それでも人物を描きたいルノワールが悪戦苦闘した痕跡がこの絵だと説明する。
この絵に至るまでと、その後: モネと並んで描いた行楽地の絵で筆触分割を確立したときから、水辺の風景へ向かうモネと人物へ向かうルノワールの差はすでに出ていたと言う。131×175cmの大作は人物表現の集大成として第3回印象派展に出したが評価されず、以後はサロンへ戻り、斑点をやめ黒も使う描き方へ移っていく。
買ったのは画家仲間、もう1枚は日本にあった: 買ったのは画商ではなく、印象派展に出資していた画家仲間のカイユボット。その遺贈のうち国が引き取ったのは68点中38点だけだったが、それが後の印象派美術館の元になったと語る。現場で描いた小さい版が別にあり、1990年に日本の実業家が約119億円で落札したが、バブル崩壊の後に手放されて日本には残っていない。