黒褐色の湯

色とにごり

黒褐色の湯は、濁らずに色だけが濃くなります。植物起源の腐植物質が溶けているためで、粒が浮いて光を散らす濁りとは分析書の欄が違います。

どう見えるか・どう感じるか

紅茶やコーヒーに近い褐色で、深いところでは黒く見えます。手のひらにすくうと薄い黄褐色に戻り、底まで見通せるのに湯船では黒い、という見え方をします。指針5-1の書き方でいえば、色調が黄褐色などで清濁は澄明のまま、という組み合わせで記録される湯です。同じ濃い色でも底が見えなくなる泥のにごりや赤褐色のにごりとはここで分かれ、足の指が見えるかどうかが最初の手がかりになります。

何がそうさせているか

泥炭層や亜炭層を通った地下水に、植物が分解してできた腐植物質が溶けているためです。指針7-34は、試料水中の塩酸で沈殿する有機物を腐植質と定め、孔径0.45µmのメンブランフィルターで集めて重量を量る手順を置いています。酸に溶けるフルボ酸類は、この値には入りません。腐植物質は色とにおいを一緒に持ち込むので、臭いの欄に泥炭臭の語が並ぶ湯とは出どころが同じになります。

出やすい泉質

掲示用の泉質名は単純温泉や炭酸水素塩泉になり、「モール泉」「黒湯」は泉質名ではなく通称です。堆積層の地下水を汲むフミン酸を含む湯に多く、色の濃さは腐植物質の量に付いていきます。分析書では腐植質が非解離成分の欄に入り、そこだけmmol値を計算しない扱いになります。泉温の低い湯が多く、汲み上げたあと温めて使う施設が並びます。火山とは関わりのない平野の側に現れる色です。

時間と空気でどう変わるか

鉄のように空気で濁っていくことは少なく、色は保たれます。指針は有機物を多く含む温泉の酸添加試料では有機物が沈殿するとして、腐植質の定量以外に回す試料には5種Aと同程度のろ材でのろ過を求めています。この湯は時間よりも、酸を加えた瞬間に姿を変えます。浴槽水の消毒に塩素剤を使う浴槽では、色より先ににおいの側が変わるとされ、目と鼻の印象がそろわなくなることがあります。

どこまで確かめられているか

高野らは、モール系の湯について腐植物質の成分と外観の指標の関係を調べています(温泉科学68巻 240-251、2019)。黒湯を対象に紫外・可視の吸光度と腐植物質の元素成分を結びつけた報告もあります(高野ら 2021、温泉科学71巻 85-96)。色から量を言い当てる換算は、掲示の分析書には載りません。