縦揺れと横揺れのビブラート
表現の技
難しさ: 時間がかかる / 効くところ: 表現
縦揺れと横揺れのビブラートは、音量が動く縦と、音程が動く横の違い。
どういう技術?
揺れの向きの違いです。縦揺れは主に音量が上下し、腹圧の押しで作るので力強く、演歌調の曲によく合います。横揺れは音の高さが上下する揺れで、喉まわりが柔らかく動き、ポップスやバラードになじみます。実際にはどちらか片方ということは少なく、両方が混ざった揺れになる人がほとんどです。音声科学者のIngo Titzeらの研究チームは、音の高さを決める喉頭の筋肉どうし(輪状甲状筋とその拮抗筋)が神経の伝わる遅れで綱引き状態になり、1秒に5〜7回の周期でゆるみと締まりを繰り返すという仕組みを2002年の論文で示しました。震えの出発点は音の高さを変える筋肉にあるため、根っこは横揺れの成分だとも言えます。
やり方
縦は、おなかに手を当てて「あっあっあっ」と1拍に2回押し、その押しを切らずにつなげます。横は口を軽く開けたまま、「あ」と「え」の間を行き来する感覚で、音の高さだけを半音の半分ほど動かします。同じ曲のサビの語尾で両方試せば、自分に出やすい方はすぐ分かります。
練習のしかた
鏡の前で5分。縦はおなかに手、横は喉に指を軽く当て、どちらが動いているかを手で確かめながら8拍ずつ交互に出します。目安は片方が1週間で安定、もう片方は1〜2か月。苦手な方を無理に伸ばすより、出るほうを磨くほうが曲の中では役に立ちますし、聞く人にも自然に届きます。
やりがちなミス
縦だけで押し続けると息が続かず、語尾で音程が落ちます。横は幅を広げすぎると音を外したように聞こえるので、動かす幅は半音以内に収めます。採点で出る種類名に優劣はなく、曲に合うほうが正解です。ビブラートの速さが一定でないうちは、向きの区別より先にそこを整えます。イタリアの大学のチームが、プロのオペラ歌手29人とジャズ歌手19人、あわせて48人の歌声を比べた研究では、ビブラートの速さそのものに差は無かった一方、音の高さの振れ幅はオペラ歌手のほうが大きかったと報告されています。速さを先に一定にし、幅は曲に合わせて変えるという順番は、この結果とも矛盾しません。
出典
- 論文・英語 Titze IR, Story BH, Smith ME, Long R/The Journal of the Acoustical Society of America(2002) A reflex resonance model of vocal vibrato
- 論文・英語 Manfredi C, Barbagallo D, Baracca G, Orlandi S, Bandini A, Dejonckere PH/Journal of Voice(2015) Automatic Assessment of Acoustic Parameters of the Singing Voice
解説動画: 【ビブラート】ボイストレーナーが教える練習法/しらスタ【歌唱力向上委員会】
揺れ方は大きく3タイプ: 聞こえ方で分けると揺れ幅の大きいもの、標準的なもの、細かく速いものの3つになる。細かい揺れは言葉と言葉のあいだにも入れやすく、不安定さや切なさの表現に向く。どれが正しいという話ではなく、それぞれのタイプで実際に活躍している歌い手がいる、という説明だった。
まず標準の揺れから: これから覚える人が最初に狙うなら標準的な揺れ。それができないまま大きい揺れや細かい揺れを取りにいくと、変な癖がついてかえって身につきにくくなる。ピアノなどの道具はいらず一人でできて、喉に無理のないやり方として紹介されていた。
「あー」を揺らす第一段階: 楽な音域・楽な音量で「あああ…」と声を揺らし、そこから少しずつ速くしていく。ある程度のテンポまで揺らし続けられるようになったら次の段階へ進む。音の高さも声の大きさも張らずに、負担のない範囲でやるのが前提。
やってはいけない3つ: 顎で揺らさない、舌を動かさない、音色を変えないの3つ。顎が動いてしまう人は歯を食いしばった状態の「んー」でやり直す。舌は鏡を見て動いていないか確かめる。音色がどうしても変わる人は裏声から始めると変化を抑えられる。この3点は次の段階でも守り続ける。
語尾に6回と、かかる時間: 第二段階は曲の語尾に6回揺らし続ける練習。うまくいかないなら語尾を長く伸ばしてゆっくり6回から。前提として、高くて苦しい音域では身につかない。3日でできる類ではなく毎日やって最低2週間、1〜2か月かかっても普通だと念を押していた。