こぶし

表現の技

難しさ: 練習すればできる / 効くところ: 表現

こぶしは、伸ばした音の途中で一瞬だけ跳ねる装飾。

どういう技術?

伸ばした音の途中で、瞬間的に音を上下させる装飾です。ビブラートが規則的な波なのに対し、こぶしは一回きりの跳ねで、動く時間は0.1秒ほどしかありません。声帯の閉じを一瞬だけ強めて戻す動きで生まれます。東京成徳大学の中里南子が演歌とポップスの楽譜を採譜して比べたところ、演歌のこぶしは伸ばす音の一つ前に、今のポップスでは伸ばす音そのものにのることが多いと報告されています。

やり方

「あー」と伸ばしている途中で、「あ・あー」と一度区切る。区切るときに息は止めず、半音から1音だけ上へ跳ねて、すぐ元の高さへ戻します。おなかを一瞬だけ引くと跳ねが出ます。曲では伸ばす音の後半に一回入れるだけで、聞く側にはこぶしとして届きます。

練習のしかた

ガイドメロディを付けたまま、伸ばす音の後半へ1回だけ入れる練習を10か所、時間は3分で足ります。連続させると崩れるので、1曲に3〜5か所を上限にします。録音で跳ねが上を向いているか確かめてください。形になるまでは2週間から2か月が目安です。焦らずに一か所ずつ増やしていけば十分です。

やりがちなミス

ただ声を揺らすだけではこぶしになりません。下へ落とす動きは別の技として扱われ、上へ入るしゃくりとも区別されます。入れすぎると言葉が聞き取れなくなるので、意味の切れ目に置きます。こぶしの加点は回数で伸びますが、点のために乱発した歌は古く聞こえます。

出典

  1. 論文 中里南子(東京成徳大学)/音楽教育実践ジャーナル(2007) J・ポップにみられる装飾的旋律の歌い方——平井堅・桑田佳祐・ケミストリー・ドリカムの「コブシ」の分析を通して

解説動画: 「こぶし」をもっと上手に歌いたい!プロ演歌歌手による「こぶし講座」/金曜ボイスログ

こぶしは速い上下の動き: こぶしは小さな節回しを指す言葉で、少し上へ上がってまた同じ音へ戻る動きが正体だと説明されます。ゆっくり弾けば半音上がって下りるだけの単純な形で、これをどんどん速くしていくとこぶしになる。練習もゆっくりの上下から速度を上げる順でやれば入れられるようになる、という話です。

下がる直前に上へ入れる: 演歌のこぶしには法則があり、音が下がる直前の音に、上へ跳ねるこぶしを入れる。こぶしをかけた音の次は下がる、という並びです。普通に歌うとサラッと流れて物足りないところに、この一か所を足すだけで演歌らしく聞こえるようになる、と実演しながら示されます。

民謡は入れ方が違う: 同じ日本の歌でも民謡は法則が別だと語られます。伸ばした音のあとにまずビブラートをかけ、そこからコロコロと転がす形で、ビブラートが必ず前に付く型もある。民謡にもこぶしは必ずあるものの、演歌とはまた別の話だ、という並べ方でした。

出どころはお経の節: 元をたどるとお坊さんがお経に音を付けた声明の流れにあたり、そこから浄瑠璃や民謡へ入って演歌へ受け継がれた、と話されます。日本で昔から親しまれてきた節回しなので演歌をはじめ日本的な曲になじみ、カラオケの採点にも項目として並んでいます。

きっちり合わせすぎない: きっちり合わせて真面目にきれいな声で歌うと演歌らしくならない、と指摘されます。少しラフに、ゆったりめに置くほうがそれらしい。同じ流れでしゃくりは目的の音まで長く時間をかけ、ビブラートは曲のテンポに対してかなり遅い波にすると演歌の色が出る、と説明されました。