語彙と背景知識
速さと拾い方
読む速さの上限を決めているのは眼ではなく言葉の力
どんな技?
読む速さを決めているのは眼の動かし方ではなく、語をどれだけ速く同定できるかです。その話題をどれだけ知っているかも、同じくらい効きます。だから速く読みたいなら、分野の言葉と前提知識を増やす側に手を入れることになります。読んでいて引っかかった語を拾って残すのが、いちばん小さな入口です。遠回りに見えますが、ここが読む速さの上限を決めています。
なぜ効くのか
語の見た目から意味までが自動化されていると、注意を文の組み立てに回せます。知っている話題なら、書かれていない部分を自分で埋めながら進めます。逆に語も前提も足りない文章では、何度読んでも速くなりません。速さと正確さが交換関係にあることも同じ総説がまとめており、無理に上げれば理解のほうが削れます。同じ本を読んでも詰まる場所が人によって違うのは、この差が出ているところです。
やり方
読んでいて詰まった語を、その場で一行だけ書き留め、あとで覚える側に渡します。覚え方そのものは思い出す練習の担当です。同じ分野を続けて読むと出てくる語が重なるので、狭い範囲を数冊まとめて読む形にします。量の側は読む量を増やすが受け持ち、変化が見えるのは数か月の単位です。書き留めるのは一日に数語で足り、増やしすぎると続きません。
はまりどころ
眼を速く動かす速読術の訓練では、読む速さの上限は動きません。語彙が足りない文章で速度だけ上げると、そのぶん理解が落ちます。伸び方は人と分野で幅が大きく、何か月で分速いくらという数字は総説にありません。専門の外に出たときは、はじめは時間がかかる前提で予定を組みます。速く読む練習をするより、引っかかった語を調べる手間を惜しまないほうが近道です。
確かめられ方
Rayner らが2016年に出した総説は、多くの研究をまとめた上で、読む速さを最も強く決めるのは語の同定と言語の力だとしています。示されている通常の読速は英語で分速250語前後、速さと正確さは交換関係で、日本語での目安は含まれていません。同じ総説は眼の動かし方の訓練では上がらないとしますが、語彙を増やす手立てごとの比較までは扱っていません。
解説動画(海外・英語): Why Prior Knowledge Wins the Game/Edutopia
技より知識が効く: 読解は技やこつを教えるのが先で、中身の知識を積むのは後回しでよい——学校の低学年でそう考えられてきた、という話から始まります。試験の点を上げる道だとみなされ、読み書きと算数以外が締め出されてきたと言います。しかし認知科学の側が言うのは、読解を大きく左右するのはその文章に関係する知識を読み手がどれだけ持っているかだ、という中身の話です。速さではなく読んで分かるかどうかの話が続きます。
野球の文章の話: 「野球の研究」と呼ばれる有名な調査が紹介されます。中学生を読解テストの成績と野球をどれだけ知っているかの二つで四組に分け、野球の文章を読ませて理解を測ります。差を生んだのは読解の力ではなく野球の知識でした。読解テストの点が低くても野球をよく知っている子のほうが、点は高いのに野球を知らない子よりはっきり良い成績だったと述べられます。
知識はマジックテープ: 知識はマジックテープのようなものだ、という言い方が出てきます。すでに言葉と知識を持っている側は受け止める文脈があるので、新しく出てきた言葉や知識も引っかかって残ります。片面がそろっているから、もう片面がくっつくという絵です。そうして残った分がまた次の足場になり、より込み入った文章まで読めるようになっていきます。
差は開いていく: 反対に持ち合わせが少ない側は、やさしい文章にとどまり、読んでも残りにくいと言います。片面が無いので引っかかるものがない、という続きです。差は年ごとに開き、高校で世界史の教科書を渡される段になっても前提の知識が手元にありません。学べないのではなく残る形で教わってこなかったのだから、早い段階で知識を積むほうが得られるものは大きい、と締めます。