モーツァルト効果

脳の思い込み

特定の作曲家の曲を聴くと頭が良くなるという説

よく言われること

「この作曲家の曲を聴くと頭が良くなる」という話が、勉強中に流す音楽から子ども向けの音楽まで、広い場面で紹介されてきました。曲そのものに知能を上げる働きがあるとされ、流しておくだけでよいと説明されます。聴かせるほど賢くなる、早いうちに聴かせたほうがよいという言い方まで続き、育児の助言としても広がりました。

実際はどうか

元の報告は紙を折り畳むような空間の課題の成績が一時的に上がったというもので、知能そのものや子どもの発達の話ではありません。その後の追試では再現に失敗し、約40研究をまとめたメタ分析でもこの作曲家に固有の効果は支持されませんでした。今は気分と覚醒が上がると一部の課題が少し良くなる、という説明で足りると位置づけられています。

なぜ広まったか

伝わる途中で空間の課題から知能へと言葉が広がり、元の報告よりはるかに強い形になりました。名の通った音楽が特別な力を持つという話は覚えやすく人に話しやすく、流すだけで済む手軽さもあります。子どもに良いことをしたい気持ちにも合うため、否定しにくい形で長く残りました。音楽を楽しむ習慣と重なっている点も、疑いにくさを支えています。

どう言えば正しいか

「好きな音楽で気分と覚醒が上がると、直後の一部の課題が少し良くなることがある」までが確かめられている部分です。作曲家を入れ替えても差は出ておらず、特別な曲を選ぶ理由はありません。勉強中に流す話はこれとは別問題なので、BGMで集中力が上がるや歌詞つき音楽を切るのほうを見るとよいです。聴く楽しみのほうをやめる必要はありません。

確かめられ方

Pietschnig ら2010は約40研究・3000人超をまとめ、この作曲家に固有の効果は支持されないと結論しています。Chabris 1999は効果をIQ1.4点相当で有意でないとし、Steele ら1999の追試も再現に失敗しました。元の Rauscher ら1993が測ったのは短時間の空間の課題で、学力や発達のほうは見ていません。

解説動画(海外・英語): The Mozart Effect/Sideways

元の報告は何を: 1993年の研究で、ある作曲家のピアノ曲を聴きながら知能検査の空間推理の部分を解くと、静かな部屋で解いたときや言葉によるリラックス教示を聴いたときより点が高く出た、というのが出発点です。ただし効果は聴いている間だけで、15分ほどで消える一時的なものでした。

IQに化けた経路: 1994年に新聞の音楽担当が「聴くと頭が良くなると研究者が結論した」と書き、1997年にはIQが上がる・赤ちゃんに聴かせると発達に良いと説く本が出ます。動画は、元の報告にあったのは短時間の空間課題の成績だけで、IQでも子どもの発達でもなかったと押し戻します。

なぜ売れたか: 動画はもう一段さかのぼり、この話が欧州の文化への憧れに乗ったから信じられ、商売にもなったと見ます。1800年代の米国では芸術を学ぶには欧州へ渡るしかなく、その名残で、欧州の大作曲家の音楽には特別な力があるという話が通りやすかった、という説明です。

効いたのは歌詞の無さ: 後半は別の説明を立てます。読むときに頭の中で音になる声(内なる声)は、話すことと聞いて分かることを担う脳の領域が作っています。そこへ人の声が入ると領域の取り合いになり、読むか聞くかの片方しか選べなくなる。だから図書館は静かで、雨音は落ち着くのだと言います。

曲は特別ではない: 歌詞の無い曲は一定の背景になるので、周りの咳や物音に気を取られずにすみ、結果として点が上がりうる、というのが動画の立場です(歌詞つき音楽を切る)。その条件を満たすならこの作曲家である必要はなく、ゲーム音楽でも映画音楽でも同じだと結ばれます。