脳トレゲームで日常が良くなる説
脳の思い込み
ゲームを続ければ仕事や生活の頭の働きが上がるという説
よく言われること
「毎日10分ほどのゲームを続ければ脳そのものが鍛えられて、仕事の物覚えや段取りまで良くなる」という説明が、ゲーム機やスマホ向けの宣伝で長く使われてきました。「脳年齢が若くなる」という見せ方や、歳をとってからでも鍛え直せるという付け足しもよく添えられ、親や祖父母への贈り物として勧める形でも広まっています。
実際はどうか
伸びるのは練習したその課題の点数で、そこは一貫して報告されています。分かれ目はその先です。訓練していない日常の作業への波及は証拠が乏しいという総点検の結論が出ています。高齢者向けの処理速度の訓練のように対象と課題を絞った例では限られた結果もありますが、若く健康な大人が生活の頭の働きを上げる用途では支持されていません。
なぜ広まったか
点数の上がり方がその場で見えるため、数字という上達の手ざわりがそのまま生活の変化として受け取られます。訓練の成果が別の作業へ移りにくいこと、つまり学びの転移の起こりにくさは体感に残らない地味な事実です。物忘れや老いへの不安に応える商品でもあるので、効き目をうたう動機が売る側にも強く働きます。短い時間で終わる手軽さもあって、続けるうちに効いている実感だけが積み上がります。
どう言えば正しいか
「そのゲームは上手くなりますが、仕事や生活の頭の働きまで良くなるとは確かめられていません」——ここで止めるのが今の報告に合った言い方です。勉強や仕事の成果を上げたいなら、間をあける練習のような裏づけのある技に時間を回すほうが確かです。同じ売り方をされてきたデュアルn-back訓練も並べて見ると分かりやすいです。認知症の予防や治療は専門家に相談する範囲です。
確かめられ方
Simons ら2016年の総説は、業界側が根拠に挙げた研究を総点検し、訓練した課題を越えた波及の証拠は乏しいと結論しています。集められた研究は対象も課題もばらばらで、高齢者向けの処理速度の訓練のように狭い範囲で結果が出た例も含みます。同じ年に米国の規制当局が大手商品の広告表示を是正させていますが、これは表示の根拠の問題で、効かないと示した実験ではありません。
解説動画(海外・英語): Can You Really 'Train' Your Brain?/SciShow
筋肉と同じ見立て: 動画は、体を鍛えるのと同じ理屈で脳も鍛えられるという見立てから入ります。記憶や注意や推論が伸びると宣伝され、認知症の始まりを防ぐとうたう商品まであるが、そうはならないと述べます。売り文句の土台にあるのは神経のつながりが変わりうる性質で、大人になっても脳に柔軟さが残ることは分かっている、と説明します。
2008年の実験: 次に、2008年に発表された論文を取り上げます。若い大人の一方は研究者と接触せず、もう一方は画面で光る四角と音の並びを追って、前に出たものと一致するかを答え続けました。数週間後、訓練した側は問題を解く力の指標が大きく伸びたように見え、論文は広く引用されたと動画は述べます。図鑑でいうデュアルn-back訓練がこの課題にあたります。
追試が続かない: ところがこの結果には、伸びるはずだと知っていたことによる思い込みの押し上げが混じっていた疑いが指摘されます。ほかの研究者が同じ手順をなぞっても、同じ結果は出てきませんでした。訓練で変わる部分が無いわけではないが、それはずっと狭い範囲にとどまる、と動画は整理し直します。
移らない上達: 2010年の研究では、1万1千人を超える人が推論や記憶や注意をねらった課題に取り組みました。動画は、6週間後に上がったのはそのゲームの成績だけで、似た課題にすら移らなかったと述べます。カード合わせの練習は、記憶の検査に使われる対の学習の点数を押し上げませんでした。ここに学びの転移の乏しさが出ています。
うたい方の問題: 研究をまとめて比べても頭の働きへの意味のある影響は見あたらず、70人の神経科学者と心理学者が衰えを止め戻すという確かな根拠は無いとする声明に署名しました。ただし動画は、リハビリの場で名前を覚える、小銭を数えるといったできるようになりたい当のことを練習した例では伸びたと述べ、問題は広告のうたい方の側だと結びます。