デュアルn-back訓練
脳の思い込み
作業記憶の課題を続ければ地頭そのものが上がるという説
よく言われること
「作業記憶を鍛える課題を毎日続ければ、地頭そのものが上がる」という説明が、頭を良くする訓練として紹介されます。位置と音を同時に覚える課題を毎日少しずつ続けると、知能検査の点も仕事の理解力も上がるとされます。続けた時間の分だけ頭の性能が上がるという筋書きで、伸びを点数で見せる形も、続ける理由として添えられます。
実際はどうか
訓練した課題そのものは続けるほど成績が上がります。剥がれるのはその先で、知能検査や語彙、読解といった離れた場面への波及には信頼できる裏づけが出ていません。似た形の課題には多少移りますが、遠いものほど差は消えます。これは学びの転移が近い課題に限られるという、脳トレゲームで日常が良くなる説と共通の形です。
なぜ広まったか
課題が上手くなる実感は確かにあるため、頭そのものが良くなった感じに結びつきやすいところがあります。最初に波及を報告した研究が注目され、伸びが点数で見えることも広まる力になりました。何もしない群と比べれば差は出るので、比較相手の置き方次第で明るい結果を作れる分野でもあります。訓練した量を自分で数えられる点も、手ごたえを強めます。
どう言えば正しいか
「訓練した課題はうまくなるが、日常の頭の良さに移るとは言えない」と言えばメタ分析の結論どおりです。容量が増えるという言い方も避けたほうがよく、作業記憶を使う課題の成績が上がったと書くほうが正確です。伸ばしたい対象があるなら、思い出す練習のようにその材料で練習するほうが近道です。課題自体が面白いなら、そこは別の理由で続けられます。
確かめられ方
Melby-Lervåg ら2016は87論文145比較をまとめ、訓練した課題そのものは伸びると報告しています。一方で知能や読解、算数といった離れた場面への波及には信頼できる裏づけがなく、Soveri ら2017のメタ分析も同じ向きです。ただし結論は比較相手に左右されるので、何もしない群と比べたのかを対照群とランダム化の側から確かめる必要があります。
解説動画(海外・英語): I Trained my Brain for 30 days with Dual N Back/Kingy
何を試したか: 作業記憶の課題を続けたら日常の頭の働きも上がるのかを、一人で30日試した回です。先に無料のオンライン検査で数字・言葉・図形の記憶を測っておき、毎日30分課題をやり、31日目に同じ検査をやり直します。本人も科学的な手続きではないと前置きしています。
課題のしくみ: 課題は、光る位置と読み上げられる文字の2つを同時に追い、nターン前と同じかどうかを答えるものです。「デュアル」は追う情報が2種類あること、nは何ターンさかのぼるかを指します。正答8割で次の段階に上がる作りで、動画では実際の画面を1手ずつ止めて解いて見せます。
課題自体は伸びる: 始めは3ターン前で正答が4〜6割どまりでしたが、2週間で5ターン前、その後6ターン前まで進みます。途中で毎ターン並べ替えるのをやめ、3つずつの塊で持ち替えるやり方に変えたのが効いたと言います。作業記憶の限界に近づいた感じがする、という手応えも語られます。
検査は変わらない: 31日目の結果は、数字の記憶がほぼ同じ、言葉と図形の記憶が少し上がっただけでした。本人は作業記憶や全般的な知能に効いたと結論できる差ではないと言い、30日では足りなかったのかもしれないと付け加えます。狙っていた「地頭が上がる」は確かめられませんでした。
残った問い: 動画が最後に置くのは、課題がうまくなることと、それが別の場面で使えることは別だという問いです(学びの転移)。数秒前に聞いた文をそのまま言い直す語学の練習や、相手の手を覚えて指す将棋のような形でも同じことをしているのではないか、という見方も述べられます。